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福岡高等裁判所 平成6年(ネ)391号 判決

平成六年(ネ)第三九一号事件控訴人、同第四一二号事件・平成八年(ネ)第九〇号事件被控訴人

(以下「一審原告」という。以下同じ。)

竹地敏章

外七七名

一審原告ら訴訟代理人弁護士

井上道夫

植松功

大川正二郎

大神周一

大谷辰雄

久保井摂

堺祥子

曽里田和典

桃原健二

野田部哲也

平田広志

美奈川成章

山崎吉男

山本晴太

吉田純一

吉村敏幸

和智凪子

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人、平成八年(ネ)第九〇号事件控訴人オレンジ商品株式会社訴訟承継人破産管財人

津田聰夫

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人、同第四一二号事件控訴人泰平商事株式会社訴訟承継人破産管財人

田中久敏

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人、同第四一二号事件控訴人甲山一郎訴訟承継人破産管財人

田中久敏

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人、同第四一二号事件控訴人(以下「一審被告」という。)

乙川二郎

外四名

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)

佐藤文男

外六名

右一審被告ら訴訟代理人弁護士

敷地隆光

白垣政幸

平成六年(ネ)第三九一号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)

荒巻泰久

主文

一  一審原告2富田安男の一審被告9佐藤文男に対する控訴を棄却する。

二  一審原告38山本佳久及び同60北島康孝の一審被告12荒巻泰久に対する控訴を棄却する。

三  一審被告ら(破産管財人を含む。)の各控訴並びに一審原告らの各控訴(前記の分を除く。)及び請求の趣旨の変更に基づき、原判決を次のとおり変更する。

(1)  別紙二「認容金額一覧表」の「原告氏名」欄記載の各一審原告(但し、番号10、18、26、35の一審原告ら(以下「棄却一審原告ら」という。)を除く。)が、破産者オレンジ商品株式会社(被告番号1)及び破産者泰平商事株式会社(同2)に対し、破産債権として、それぞれ、同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求権を有することを確認する。

(2)  別紙二「認容金額一覧表」の「被告番号」欄記載の各一審被告(但し、被告番号1、2を除く)は、対応する「原告氏名」欄記載の各一審原告に対し、連帯して、同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  一審原告らのその余の請求(棄却一審原告らの各請求及びその余の一審原告らの被告番号3ないし7、11、15、17の一審被告ら(以下、番号9を含めて、「棄却一審被告ら」という。)に対する各請求を含む。)をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、棄却一審原告らを除く一審原告らと棄却一審被告らを除く一審被告らとの間に生じた分は、右一審原告らに生じた費用の二分の一と右一審被告らに生じた費用について、これを五分し、その三を右一審原告らの、その余は右一審被告らの各連帯負担とし、棄却一審原告らを除く一審原告らと棄却一審被告らとの間に生じた分は、右一審原告らに生じたその余の費用と棄却一審被告らに生じた費用を右一審原告らの連帯負担とし、棄却一審原告らと一審被告らとの間に生じた分は、全部右棄却一審原告らの連帯負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  平成六年(ネ)第三九一号事件の控訴の趣旨(一審原告ら)

1  原判決を次のとおり変更する。

2  別紙三「請求金額一覧表」の「原告番号・原告氏名」欄記載の各一審原告が、破産者オレンジ商品株式会社(訴訟承継前の一審被告、以下「オレンジ商品」という。)、破産者泰平商事株式会社(訴訟承継前の一審被告、以下「泰平商事」という。)及び破産者甲山一郎(訴訟承継前の一審被告、以下「甲山」という。)に対し、破産債権として、それぞれ同表「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払請求権を有することを確定する。

3  別紙三「請求金額一覧表」の「原告番号・原告氏名」欄記載の各一審原告に対し、対応する「被告番号」欄記載の各一審被告(但し、被告番号1ないし3を除く。)は、連帯して、同表「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(但し、一審原告らは、当審において、右2、3のとおり請求の趣旨を変更した。)。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、一審被告らの負担とする。

二  右控訴の趣旨に対する答弁(被告番号12を除く一審被告ら)

1  一審原告らの控訴を棄却する。

2  変更後の請求を棄却する。

3  控訴費用は、一審原告らの負担とする。

三  平成六年(ネ)第四一二号事件の控訴の趣旨(被告番号1、9、12、を除く一審被告ら)

1  原判決中、一審被告ら敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告らの負担とする。

四  右控訴の趣旨に対する答弁

1  右一審被告らの右控訴を棄却する。

2  控訴費用は、右一審被告らの負担とする。

五  平成八年(ネ)第九〇号事件の控訴の趣旨(オレンジ商品破産管財人)

1  原判決中、オレンジ商品敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らのオレンジ商品に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告らの負担とする。

六  右控訴の趣旨に対する答弁

1  破産者オレンジ商品管財人の右控訴を棄却する。

2  控訴費用は、破産者オレンジ商品破産管財人の負担とする。

第二  事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり訂正する外は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表一一行目の「被告」を「訴訟承継前の一審被告」と、同末行の「被告甲山」を「訴訟承継前の一審被告甲山一郎」と、同裏三行目の「被告泰平商事株式会社(以下「被告泰平商事」という。」を「訴訟承継前の一審被告泰平商事株式会社(以下「泰平商事」という。」と、それぞれ改める。

二  同四枚目裏七行目、同七枚目表三行目及び同七行目の各「青年」をいずれも「成年」と改める。

第三  争点に対する判断

一  当事者について

当事者間に争いのない事実に、主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  オレンジ商品

(一) オレンジ商品は、昭和五九年二月海外商品先物取引受託業を目的としてカーギル貿易の名称で設立された株式会社で、当初の代表者は甲山の実父であったが、その後昭和六二年六月に甲山が代表取締役社長となった。甲山は、平成三年四月に代表取締役を退任し、一審被告乙川が代表取締役社長となった。

同社は、平成二年五月二日に現商号に変更されたが、平成元年度には毎月約一五〇〇枚から約二五〇〇枚の建玉取引があり、平成二年八月一日には、一日だけでコーヒーについては二二五枚の、ガスオイルについては一〇七枚の取引が行われるなど相当多数回の取引がされていた。また、オレンジ商品の平成三年四月の顧客数は五二四名、委託手数料収入が約八二〇〇万円、委託保証金が約七億七〇〇〇万円であったが、平成四年ころには顧客数は約六〇〇名であり、在籍社員は約八〇名であった。(〈書証番号略〉)

(二) オレンジ商品では、職制上は部長、副部長、課長、係長、主任、副主任及びその下に役職のない社員(以下、営業活動を行った従業員を「営業社員」という。)が配置されていたが、営業については、営業本部が設けられ、その統括のもとに営業第一店、第二店(その後、第三店も設けられた。)があり、店長(副部長、課長が当てられた。)から店長代理、課責(副主任から係長まで)に指示がされていた。また、副主任の下に社員が第一店で六、七名おり、二店合計一二、三名がいて、営業活動に従事しており、顧客に対する勧誘は、内勤部門のLC事業部から渡される顧客見込客の名簿を検討して課責の指示により右営業社員により行われていた。

新入社員は、新卒採用及び中途採用を問わず、入社直後に二週間ないし一か月間、会社の方針、商品知識等についての研修を行い、法令上義務づけられていなかったが、国内先物取引において実施される試験と同様の外務員試験を行い、その合格者を営業社員として配属していた。

(〈書証番号略〉)

2  泰平商事及び泰平グループ

(一) 泰平商事は、昭和六二年六月一八日に甲山が海外との貿易業務等を営業目的として設立した会社であり、当初の代表者は甲山の実母であったが、後に甲山が代表取締役社長に就任した。同社は、平成三年まで本店事務所をオレンジ商品と同じビルに置いていた上、従業員も泰平商事からオレンジ商品に出向の身分の者が多く、オレンジ商品の内勤、経理業務を行っていたため、ほとんど区別し難い状態であった。

甲山は、オレンジ商品と泰平商事の株式のほとんどを所有して、両社の代表者を兼任し、両社を統括して経営していたが、前記のとおりオレンジ商品の代表者を退任したため、平成四年六月現在では、監査役の訴外廣川利恵子を除き、両社の役員を兼任している者はいない。

(〈書証番号略〉)

(二) 甲山は、前記オレンジ商品及び泰平商事の外に、飲食店等の経営やマリン事業等を営業目的とするリエーム、経営コンサルタント、英会話スクール運営等を営業目的とするビジネスフォーラム研究所(BFI)、経営コンサルタント業務や貸金業等を営業目的とするヤスタカ産業、不動産売買等を営業目的とする泰平不動産を次々に設立して、泰平グループの名称で活動していた。右各社に在籍する社員は漸次増加しており、平成四年度では関連会社在籍社員が多い状況となっている。なお、リエーム及び泰平不動産の代表者は甲山の妻である。

(〈書証番号略〉)

3  甲山

甲山は、昭和四五年三月大学を卒業後、国内先物取引受託業者(商品取引員)である朝日物産に入社して先物取引受託業務に従事し、昭和四九年一二月に同社からサンライズ貿易(昭和四七年に朝日物産から社名変更)グループの一員であるゼネラル貿易に移り、同社で本店長、広島支店長、大坂支店長を勤め、昭和五三年七月に同グループの一つであるオリエント貿易の営業本部長になり、昭和五六年二月取締役常務を最後に同社を退社した。その後、ファースト貿易を設立して海外先物取引に転向し、常務、専務を歴任し、昭和五九年二月六日に独立してオレンジ商品の前身であるカーギル貿易を設立した。

甲山は、同社の株式をほとんど所有しているオーナーであり、取締役本部長、代表取締役社長に就任して全般を統括してワンマン経営をしていたが、前記泰平グループ各社を設立してからは、右グループ全般を統括指導し、平成三年四月オレンジ商品の社長を退任して泰平グループの会長に就任した。甲山は、退任前からオレンジ商品には殆ど出社せずに、一審被告乙川らに日常の通常業務を任せており、会社の運営に関して直接指示したのは従業員の大量退社等の例外的な場合だけであった。しかしながら、甲山は、会長就任後も、オレンジ商品等の泰平グループを強力に統率してワンマン経営を続けており、一審被告乙川ら幹部社員から毎日業務日報で報告を受けて指示を出したり、泰平グループの常務会や役員会等及び月曜日に副本部長職以上が出席して開かれる月曜会等には出席して、オレンジ商品及び泰平商事等のグループの基本方針を審議決定して全体を統括していた。

(〈書証番号略〉)

4  一審被告乙川ら役員

(一) 一審被告4乙川は、昭和四九年四月大学商学部を卒業し、国内先物取引受託会社である前記オリエント貿易に入社して昭和五三年七月甲山と知り合った。同一審被告は、右会社を退社したが、昭和五九年二月のオレンジ商品の設立と同時に営業次長として入社し、その後本部長、常務取締役に昇格し、平成二年夏ころ専務取締役に就任し、更に平成三年四月に代表取締役社長になった。同一審被告は、オレンジ商品の専務取締役ないし代表取締役社長として、泰平グループ全般の現場の最高責任者として、業務全般を掌握し、対外的な紛争処理や折衝を行っていた。

(〈書証番号略〉)

(二) 一審被告5林は、前記オリエント貿易、ファースト貿易を経て、昭和五九年二月オレンジ商品の設立と同時に入社し、平成元年七月まで営業担当として勤務していたが、同年八月に営業において発生したトラブルの解決を行うとともに顧客に対して各種情報を提供する部門である顧客サービス部が設立された際に、右部門の責任者となり、各種会議に出席するなど甲山を補佐してきた。

(〈書証番号略〉)

(三) 一審被告6丙田は、大学法学部を卒業して、二年間喫茶店を経営していたが、その後、海外先物取引受託会社である大栄貿易に入社し、その後も、ユニバース、ワールドジャパン、中央勧業と海外先物取引受託業の会社に勤務し、昭和六二年三月オレンジ商品に営業課長として入社し、新規委託者の勧誘及び顧客管理の業務に従事し、同年八月営業次長に昇格し、昭和六三年営業部副部長に昇格した。その後、同一審被告は、平成元年に取締役営業部長に、平成二年には取締役本部長に、翌三年には取締役常務に昇格した。同一審被告は、甲山会長、乙川社長を補佐して、オレンジ商品を含む泰平グループ全般の営業の総括責任者として営業全体を指揮していた。

(〈書証番号略〉)

(四) 一審被告7富山は、昭和六二年九月泰平商事に係長として入社し、同年一二月オレンジ商品へ係長として出向し、昭和六三年四月副長、同年一二月に課長に昇格して顧客の売買管理を行い、平成元年八月に次長、平成二年八月に副部長、平成三年四月には取締役副部長に就任して社員管理全般を行っていたが、同年一〇月中旬に退社した。

(〈書証番号略〉)

5  一審被告馬渡ら営業社員

(一) 一審被告8馬渡は、海外先物取引受託業務の経験を有していたが、昭和六三年一〇月二七日オレンジ商品に営業社員として入社し、先物取引の受託業務に従事した。同一審被告は、平成元年四月主任、同年一二月係長、平成二年八月副長となり、平成三年八月には課長に昇進したが、同月二〇日退社した。

(〈書証番号略〉)

(二) 一審被告9佐藤は、平成元年八月一日時点で、南第二営業所の責任者(副長)であり、一審被告8馬渡の上司であった。

(〈書証番号略〉)

(三) 一審被告10甲斐は、平成二年三月一日オレンジ商品に入社して顧客勧誘等の業務に従事し、同年一二月副主任、平成三年四月主任、同年八月係長、平成四年一二月副長に昇進した。

(〈書証番号略〉)

(四) 一審被告11辛島は、平成二年一二月一〇日オレンジ商品に入社して顧客勧誘等の業務に従事し、同年一二月副主任となった。なお、上司は一審被告8馬渡、同13丸山であった。

(〈書証番号略〉)

(五) 一審被告12荒巻は、オレンジ商品の営業社員として勤務し、顧客勧誘等の業務に従事していた者であるが、その上司は一審被告17松尾であった。

(〈書証番号略〉)

(六) 一審被告13丸山は、昭和六三年五月八日オレンジ商品に入社し、顧客勧誘等の業務に従事し、平成元年四月主任、同年八月係長、平成二年四月副長となり、平成三年八月には課長に昇進した。同一審被告は、平成四年一二月には次長に昇進したが、その後、BFIの営業に従事している。

(〈書証番号略〉)

(七) 一審被告14原は、それまで海外先物取引受託業務の経験はなかったが、平成元年四月二五日オレンジ商品に営業社員として入社して海外先物取引の受託業務に従事した。同一審被告は、同年八月副主任、同年一二月主任、平成二年八月係長と昇格したが、平成三年六月に退職した。

(〈書証番号略〉)

(八) 一審被告15小畑も、それまで海外先物取引受託業務の経験はなかったが、平成元年六月末日オレンジ商品に営業社員として入社して海外先物取引の受託業務に従事した。同一審被告は、平成二年一二月副主任、平成三年四月主任、同年一二月係長となり昇格したが、同月末日に退職した。

(〈書証番号略〉)

(九) 一審被告17松尾は、県立高校を中退し、寝具の販売会社に勤務したあと、平成元年三月二八日オレンジ商品に営業副主任として入社して、海外先物取引の受託業務に従事し、同年八月主任、同年一二月係長、平成二年一二月副長と昇格し、平成三年八月には課長に昇進し、その後も同年一二月次長、平成四年八月副部長になった。

(〈書証番号略〉)

6  一審原告ら

一審原告ら七八名は、昭和六三年五月ころから平成四年一〇月ころまでの間にオレンジ商品の営業社員から勧誘されて、海外先物取引委託契約を締結し、同社に委託して右先物取引を行っていた者であるが、年齢はすべて二〇歳代から三〇歳代であり(そのうち二七名は二五歳未満である。)、職業はほとんどがサラリーマンである。そして、いずれもこれまでに商品先物取引等の経験はなく、収入が低いものがほとんどである。また、家庭を持ち、自己の預金を解約して委託保証金を準備した者もいるが、市中の金融業者(以下「サラ金」という。)から借入れをして委託保証金を工面し、家族や勤務先会社には秘密にして取引を始めた者が多い。

(〈書証番号略〉)

7  紛争の経緯

(一) 一審原告ら訴訟代理人らは、昭和六一年ころ以降オレンジ商品の顧客から、海外先物取引によって損害を被った旨の相談に応じていた。そして、平成元年七月顧客がオレンジ商品に対し、違法な営業により委託保証金を詐取された旨主張して損害賠償請求訴訟を提起し、更に、同年一〇月には証拠保全手続や動産仮差押手続を行ったが、これらはマスコミで広く報道された。また、右弁護士らが同年一一月一日付けでオレンジ商品の営業社員らに対し、「オレンジ商品商法は違法であり、営業社員らを相手方として損害賠償の請求をすることもあり得る。」旨記載した通告書を送付するなどしたため、オレンジ商品は、平成元年一一月三〇日以降平成二年一二月二七日まで、顧客ら合計八三名との間で損失金の七割(合計約一億二〇〇〇万円)を支払う旨の和解をした。

しかし、その後も顧客らかの苦情が続いたため、右弁護士らは、平成三年四月本件訴訟の一審原告らの一部を申立人として、オレンジ商品、泰平商事の動産等の仮差押手続を行い、このこともマスコミで報道された。他方、オレンジ商品は、右仮差押命令に対して起訴命令を申し立てたため、同年六月本件訴訟(第一陣)が提起された。

(〈書証番号略〉)

(二) ところで、一審相被告丁野四郎は、平成元年七月オレンジ商品に入社して営業活動に従事し、営業成績は優秀であったが、平成二年八月ころから自分のサラ金の借金の返済に追われて甲山から資金援助を受けるほどであった。ところが、丁野は、平成三年一月ころ、オレンジ商品の顧客名簿等を無断で持ち出して右翼を名乗る男に流出させ、同人がオレンジ商品に対し金員を要求して街宣車を事務所の周囲に出没させる事件を引き起こした。同年三月末ころ丁野の右無断持ち出しの事実が発覚したため、オレンジ商品は、同年四月丁野を懲戒解雇した。ところが、丁野は、オレンジ商品の顧客らに対し、「オレンジ商品は詐欺会社であり、弁護士に依頼すれば委託保証金の七割位が戻ってくる。」旨告げて回り、右顧客らから弁護士紹介料として三万円ないし一五万円位を受け取っていた。

その後、同年八月ころ丁野は、オレンジ商品を退社した営業社員らとともに、海外先物取引受託会社であるユニオンコーポレーションの設立に関与し、海外商品市場に注文を取り次がないで呑み行為をしたり、相場の動向と無関係に顧客に頻繁に取引をさせて委託保証金名下に顧客から金員を詐取する詐欺事件(以下「ユニオンコーポレーション刑事事件」という。)を起こして、平成五年八月一八日有罪判決を受けた。

(〈書証番号略〉)

(三) 他方、オレンジ商品は、本件訴訟が原審に係属中の平成五年五月一八日、海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(以下「海外先物取引法」という。)違反及び詐欺容疑で警察の強制捜査を受け、現在、甲山、一審被告4乙川及び一審被告6丙田が詐欺被告事件で公判中である(以下「別件刑事事件」という。)。

(〈書証番号略〉)

(四) また、オレンジ商品の顧客は、福岡地方裁判所に対し、オレンジ商品、泰平商事及び甲山が破産状態にあるとして、破産の申立てをしたところ、オレンジ商品は、平成五年一二月一日破産宣告がされて弁護士津田聰夫が破産管財人に選任され、泰平商事及び甲山は、平成七年一月一八日破産宣告がされて弁護士田中久敏が破産管財人に選任された。

(〈書証番号略〉)

二  基礎的事実関係(オレンジ商品の海外先物取引の仕組み、取引の方法等)

海外先物取引の仕組みやオレンジ商品の取引の方法等本件の基礎的事実関係について検討するに、主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  海外先物取引の仕組み

(一) 先物取引

先物取引は、将来の一定時期に商品及びその対価の授受を約し、その時点までに買戻し又は転売等をして差金決済のできる売買取引であり(海外先物取引法二条一項)、公正価格の形成、ヘッジ(保険つなぎ)等の機能を有しているが、右機能を果すためには多数の投機家の存在が必要であるとされている。先物取引は、総取引金額に比較して少額の資金(委託証拠金)を担保として取引を行うため、相場の変動により多額の利益を得る可能性もあるが、逆に多額の損失を被る可能性もあり、極めて投機性の高い取引(いわゆるハイリスク・ハイリターンの取引)である上、気象、作柄、政治情勢、市場経済の動向や為替の変動等の多種多様な諸要因やその時々のわずかな情報によって激しく値動きし、同じ商品でも限月(契約履行の最終期限の月)によって値動きが異なるため、相場の変化を予測するのは取引業者でも極めて困難である(先物取引の会社は利益客の比率を公表していないが、国内の商品先物市場において長期間先物取引業務に従事していた訴外藤原秀真は、別件刑事事件の法廷において、最終的に利益を得る顧客の割合は一割程度と述べている。)。

国内の先物取引市場は、東京穀物商品取引所や東京工業品取引所等の商品取引所において、砂糖等の農産物や金、白金等の鉱物資源について取引されているが(商品取引所法二条)、右取引所で取引をすることができる者は、商品取引員(以下「国内業者」ともいう。)に限られているため、右先物取引を行おうとする者は、国内業者に取引を委託して先物取引を行うこととされている。

(〈書証番号略〉)

(二) 海外先物取引

他方、ロンドン、シカゴ、ニューヨーク等の海外商品市場においても、各種商品について活発に先物取引がなされているが、右海外商品取引市場の取引主体も、右市場の正会員に限られている。そこで、海外商品取引市場の取扱い商品につき先物取引を行おうとする者は、オレンジ商品のような海外先物取引受託業者に対し、右先物取引を行うことを委託するのが普通であって、右海外先物取引受託業者が、顧客の売付け又は買付けの指示に従って右正会員に更に委託して海外商品取引市場において先物取引を行っている。

ところで、海外先物取引も、それ自体、国内先物取引と同様の極めて高い投機性を有している上、場立ちがないために臨機の処置がとれないことによるリスクや邦貨に換算する際の為替変動のリスクもあり、極めて危険な取引である。しかも、海外先物取引については、国内先物取引とは異なり、業者が主務官庁から設立に関する許可や許可更新を要するものではなく、商品取引所からの指導監督や業者間の各種の自主規制もないため、委託者が被害を受ける事例が頻発したことから、「海外商品市場における先物取引の受託等を公正にし、及び当該先物取引の委託者が受けることのある損害の防止を図ることにより、当該先物取引の委託者の利益の保護を図ること」(一条)を目的として海外先物取引法が制定され、昭和五八年一月一五日施行された。

右法律は、顧客に交付すべき書面の種類、内容を定めるとともに(同法四ないし七条)、顧客の売買指示についてクーリングオフ規定を設け(同法八条)、勧誘等についての各種禁止事項を規定し(同法九、一〇条)、その違反に対しては、業務停止命令、立入検査等の行政処分をなしうる旨規定(一一、一二条)するのみならず、罰則も規定されており(一六ないし二〇条)、これを受けて施行に関する政令や省令の定めがある。

(〈書証番号略〉)

(三) オレンジ商品の委託先

オレンジ商品は、昭和六〇年、ロンドン商品取引所の正会員であるGNIとの間に委託契約を締結し、日本国内の委託者(顧客)から先物取引の委託を受けて、その指示によりGNIに商品先物取引を委託し、ロンドン商品取引所において、砂糖、ガスオイル、コーヒー、ココアについて先物取引を行っていた。なお、昭和六三年六月二八日、前記契約は更新された。

(〈書証番号略〉)

2  オレンジ商品の勧誘、取引の仕組み、手順等(なお、本件における勧誘、取引の際の具体的な状況等については、後に詳しく検討する。)。

(一) 勧誘

LC事業部(当初は、泰平商事からオレンジ商品に出向する形をとっていたが、後にヤスタカ産業の一部門となった。)に所属する内勤の女子従業員等が、高額所得者名簿や高校卒業生名簿等の各種名簿に基づき、電話を掛けて先物取引に興味があるか否かをアンケート形式で調査し、「興味がある。」「面談して説明を聞いてもよい。」旨の返事を受けた者を営業部門に引き継ぐ(なお、右電話勧誘に応じる者の割合は少ない。)。

そして、営業部門の営業社員が、顧客と面談の約束をした上で、指定された場所に赴き、初めて顧客に会って、海外先物取引の仕組み、内容、証拠金、手数料額及び商品の値動き、見通しなどを説明し、先物取引の勧誘を行う。

なお、その際、営業社員は、先物取引の概要を簡単に記載した説明用のパンフレット(〈書証番号略〉、その後、先物取引の商品の特性、取引方法、計算方法等をある程度詳しく記載したオレンジ商品のパンフレット(〈書証番号略〉)が作成されてからは、右パンフレット)を示して説明する外、海外先物取引法四条に基づいて説明することが義務付けられている「海外商品取引における先物取引委託の手引」(なお、右書面には、同法施行規則二条二項に従い、右書面を充分に読むこと、先物取引には危険が伴う旨が赤枠の中に赤字で印刷されていた。)を交付した上(受領書に署名捺印を貰っていた)、商品の種類、限月、預託証拠金や手数料額等について説明することとなっていた。

(〈書証番号略〉)

(二) 契約締結

顧客が、右勧誘に応じて先物取引をする意思を示した場合、営業社員は、顧客から次の各書面(正本と控え)に署名捺印(指印)を貰い、そのうち控えを交付して、正本をオレンジ商品において保管していた。

(1) 売買取引契約書(〈書証番号略〉)

海外先物取引法五条に基づき海外先物取引の内容を記載した書面であるが、右契約書には、「建玉等が委託者らの判断と責任により行われるものであること(第三条)、売買が成立したときは委託者に書面によって通知がされること(第五条)、反対売買による決済と差益損の通知がされること(第六条)、及び委託者が保証金を預託しなければならず、追加保証金を預託しなければならない場合があること(第九条、第一〇条)」等の各記載がされている。なお、右書面には、同法施行規則四条二項に従い、「右書面を充分に読むこと、契約締結後一四日を経過した後でなければ売買指示を受けることができないこと、但し、事業所においてはいつでもできること」が赤枠の中に赤字で印刷されていた。

(2) 通知書、届出印鑑登録証(〈書証番号略〉)

住所等の通知書と届出印鑑登録証

(3) リスク開示書(〈書証番号略〉)

先物取引には多額の損失リスクを伴い、追加保証金が要求されることがあること、決済が不可能となることがあること、スプレッド(両建)が片建てよりリスクが軽微でないことがあること、及び、先物取引が多額の利益同様多額の損失ももたらされる旨が記載されていた。

(4) 確認書(〈書証番号略〉)

オレンジ商品が独自に作成した書面であるが、右書面には、「①商品先物取引は、相場であり、常に損得が伴い、元本保証がないことにつき説明を受け、十分熟知して、自分の意思で取引を開始する。②預託証拠金は、顧客の責任で準備し、取引結果についてオレンジ商品の責任を問わない。③売買注文は、一任することなく、全て顧客の意思と責任において実行し、その結果について責任を問わない。④取引については契約書に従い、円滑に実行する。疑問等があれば相談室を利用する。」旨が記載されていた。なお、平成元年以前には、②についてのみ記載された簡易な書面が使用されていた(〈書証番号略〉)。

また、営業社員は、顧客に対し、「お客様カード」(〈書証番号略〉、ほとんどの一審原告につき各乙個号証の6〔なお、若干の例外がある。以下、各乙個号証の枝番を摘示するときは同様の趣旨である。〕)に氏名、勤務先、自宅住所、電話番号及び生年月日を記載してもらって、これをオレンジ商品が保管していた。また、平成四年ころ以降「お客様各位」と題する書面(オレンジ商品においては過度の営業行為を禁止しているので、営業社員が執拗に勧誘すること、取引継続を執拗に説得すること、入金追加を執拗に求めること、担当者との連絡がとれないことがあれば、顧客相談室に連絡するように求めた書面、〈書証番号略〉)を顧客に交付していた。

(〈書証番号略〉)

(三) 保証金の入金

委託者は、先物取引をするに際し、後記のとおり、担保として受託者に委託保証金(委託証拠金)を預託しなければならないところ、オレンジ商品では、平成三年六月一日時点で一枚当たり、コーヒー一五万円、ココア二〇万円、ガスオイル四五万円、砂糖三〇万円を顧客から徴していた(なお、右金額の変更の経過については後に検討する。)。

(〈書証番号略〉)

(四) 売買指示

前記のとおり海外先物取引法にはクーリングオフ規定(同法八条)があるため、契約が締結されても原則として直ちに売買指示を受けることはできず、営業社員は、一四日間経過後に、委託者から電話で注文を受けて、注文伝票(〈書証番号略〉)に委託者名、受注日時、商品名、限月、新規・仕切りの別、指値か成行か等の必要事項を記載して受注していた。

もっとも、同法八条一項但書には、「事業所において顧客が売買指示した場合は、この限りではない。」旨規定されているため、顧客がオレンジ商品の事務所に赴いて、売買指示をした場合は、後記の「訪問者カード」に記載してもらった上で直ちに注文をしていた。

(〈書証番号略〉)

(五) GNIへの発注と取引

オレンジ商品は、委託者毎にGNIに発注するのではなく、限月等同じ商品の売付けと買付けを集計して、自己の注文としてGNIに対しファックスで発注し、GNIは、右発注に従い、ロンドン商品取引所で取引を行って、売買が成立すれば、右オレンジ商品からの発注書にその約定値段を記載し、オレンジ商品あてにファックスで返送してきていた。

なお、オレンジ商品は、GNIからファックスで毎日市場の始値(寄付)、高値、安値、終値(引値)などの連絡を受けて、これをまとめて「ロンドン市場先物取引場帳」(〈書証番号略〉)を作成していた。

(〈書証番号略〉)

(六) 取引内容の報告

オレンジ商品は、右売買成立後、「委託(売付、買付)報告書及び計算書」(以下「売買報告書」ともいう。)を注文伝票の控えとともに委託者へ送付し、さらに、少なくとも毎月一回(月末)、委託者の建玉内訳等を記載した残高照合通知書を送付していた。そして、顧客から回答用の通知書(〈書証番号略〉)に、取引状況の相違の有無を確認のうえ、内容に相違があるか否かにつき記載して、署名捺印の上返送してもらうこととなっていた。

(〈書証番号略〉)

(七) 取引終了

委託者との取引が全て手仕舞いにより終了した場合、オレンジ商品は、委託者から取引終了確認書を受領し、預託されていた保証金については取引による損益、手数料等を計算して清算し、残金があれば、委託者指定の銀行口座等に振込送金することとされていた。また、取引過程においても、委託者が一部出金を要求する場合は、出金依頼書を提出し、支払がなされることとされていた。

(〈書証番号略〉)

3  相場に関する情報について

(一) テレフォンサービス

オレンジ商品は、平成元年二月九日、日本経済新聞が提供するパーソナル・コンピューター向けオンライン情報サービス「ニッケイ・テレコム」の利用契約を結び、情報会社(KRF社)の情報(時事ファックス)をプリントアウトするなどして、毎日、ロンドン商品取引所における取引状況や情報を入手し、さらに泰平グループのビジネス・フォーラム研究所(BFI)の従業員がこれを邦訳していた。そして、オレンジ商品は、右邦訳を放送用に改めたもの及び各銘柄の値動きを毎日テープに吹き込んで電話回線に接続してテレフォンサービスを行っていた。

右テレフォンサービスは、右のとおりオレンジ商品や営業社員の相場観ではなく、各銘柄の値動きや相場の要因及び市場関係者の意見等の客観的情報を流していたものであり、営業社員もこの情報を参考にして相場観を形成していた。

なお、右テレフォンサービスについては、勧誘時に交付した営業用パンフレットで説明している上、その電話番号は、右パンフレットの外、後記週刊情報誌、月刊誌にも記載されていたので、顧客は、右テレフォンサービスの存在を知っており、これを利用することにより相場情報を直接得ることができた(なお、オレンジ商品は、右利用を図るため、右電話番号を記載したテレフォンカードを顧客に無料配布したこともあった。)。

(〈書証番号略〉)

(二) 雑誌

オレンジ商品では、平成元年四月ころから、毎週、週刊情報誌(週刊マーケット・プレイヤー)を公刊し、前記のニッケイ・テレコム等による各種情報(売り材料・買い材料等)を商品ごとに要約して掲載し、希望する顧客に無料で送付していた。さらに、平成二年八月からは、右ニッケイ・テレコムからの情報のみならずGNI等から入手した各種情報や商品取引の仕組み、売買方法の説明、用語の解説等を掲載した月刊情報誌(フューチャーズ)を毎月発行し、顧客に無料で送付していた。なお、オレンジ商品は、前記ビジネス・フォーラム研究所が発刊していた「先物経済英語入門」という書籍も、顧客に無料で配布した。

(〈書証番号略〉)

(三) 相場速報

前記ビジネス・フォーラム研究所は、右ニッケイ・テレコム等で入手した情報の概要を一枚にまとめて「BFI相場速報」を作成し、営業社員に交付していた。この情報源は、テレフォンサービスと同一であり、営業社員は、顧客からの相場に関する問い合わせ等の参考とし、自らの相場観を形成する資料としていた。なお、オレンジ商品は、クォートロン情報サービス(各地の海外市場の出来高、値段等の状況がリアルタイムで表示される情報サービス)の導入を図り、平成四年一二月ころ約四五〇〇万円を投資して設置したが、実際に稼働するには至っていなかった。

(〈書証番号略〉)

(四) 日本経済新聞

日本経済新聞夕刊には、海外商品先物取引の欄があり、ロンドン商品取引所の値動きについても毎日掲載され、市況の動き等についての記事も掲載されていた。

(〈書証番号略〉)

4  委託保証金及び手数料

(一) 先物取引においては、国内先物取引及び海外先物取引とも、取引による差損及び委託手数料の支払を担保するため、委託者は、先物取引開始前に受託者に対し、通例、各商品の約定総代金の一割ないし三割程度の委託保証金(後記のとおり、商品によって相当な差異がある。「基本証拠金」という。)を預託することとされ、建玉中に、相場の変動により値洗い(売買約定が成立した時の約定値段とその日の最終約定値段との価格差を計算すること)により損計算となり、当初預託した保証金の二分の一以上の差損が生じた時は、追加保証金(「追証」ともいう。)を差し入れることとされている。なお、預託者が右追証を預託しない場合には、受託者は、委託者の計算において、建玉の全部又は一部を決済することができることとされている。

(〈書証番号略〉)

(二) また、委託者から先物取引の委託を受けた受託者(先物取引業者)は、委託者から市場への取次業務代行代金として委託手数料を受領し、これが業者の大きな収入源であるが、その額も取引商品によって異なっており、通常、仕切られた時点で売買差損益金や委託保証金から差引する方法で支払われていた。

右の委託証拠金及び手数料は、国内先物取引においては、商品取引所が随時決定して規制しているが、海外先物取引においては、海外市場の正会員が顧客の信用度に応じて決めており、オレンジ商品も自己の経営判断で決定していた。

(〈書証番号略〉)

三  向かい玉による詐欺の主張について

一審原告らは、オレンジ商品らが、向かい玉を建てる行為は、これにより市場と断絶させ、顧客の委託保証金を市場へ流出させることなく、業者と客との間の清算関係のみが問題となる利益相反の関係を生じさせた上、顧客に損失が出るように誘導して、向かい玉の利益によって右損失を取得する詐欺行為である旨主張するので、以下、順次検討する。

1  オレンジ商品らの向かい玉について

主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) オレンジ商品は、泰平商事に対し内勤業務を委託していたが、その中には、GNIに対し、顧客の委託玉に対当させて自己玉を建てるいわゆる向かい玉を注文することも含まれており、泰平商事は、GNIとの間で委託契約を締結し、独自に建玉して別個に預託金を送金していた。なお、その後、平成三年四月からは、同じ泰平グループに属しているヤスタカ産業も自己玉を建玉するようになった。

(〈書証番号略〉)

(二) オレンジ商品らは、若干の例外的な期間を除き、会社の方針として、次の方法で向かい玉を建玉していた。

(1) オレンジ商品の担当者(業務部)は、営業部門から集計された結果に基づいて、毎日GNIに対し、各商品、各限月ごとに顧客らの建てた売付けと買付け(新規分、仕切り分)の合計した建玉数を記載したオーダー表をファックス送信して注文し、次いで、委託者をオレンジ商品、泰平商事らとして、相場の動向に対する思惑を全く入れずに、右建玉の差に相当する分を機械的に向かい玉として注文していた(いわゆる差玉向かい)。そのため、オレンジ商品と泰平商事らを通じて見れば、GNIに対する注文は、同一商品の同一限月については、買付けと売付けとが同枚数であった。

(〈書証番号略〉)

(2) GNIは、右注文をロンドン市場に通したが、ロンドン市場は、ザラバ取引(一定の時間帯内で継続的に売買を行い、二会員間で相対形式で契約が成立するごとに一組ずつ違った値段が成立し、これを取引所の帳簿に記入していく方法。複数約定値段方式)であるところ、同一市場の同一銘柄、同一限月につき、同一業者が同枚数を同一値段で売買すること(クロス取引)が許されているので、GNIがオレンジ商品及び泰平商事の売り・買い同数の右注文をクロス取引で市場に通した時点で、売り・買いの約定値段がその時の市場値段で同一金額で決まっていた。そこで、GNIの担当者は、右市場で成立した値段を前記注文ファックスに書き込んで、再度ファックスで送信し、さらに泰平商事の注文分についても同様に送信してきた。

オレンジ商品の担当者は、オレンジ商品の委託玉及び泰平商事の自己玉の各仕切り分(落玉明細)に、右成立値段(落ち値)を記載し、これにより差損益額を確定させていた。

なお、クロス取引は、アメリカ市場では禁止されているが、イギリス市場では許容されており、多用されている取引形態である。

(〈書証番号略〉)

(3) ところで、オレンジ商品は、顧客に対し、オレンジ商品らにおいて向かい玉を建てていることを知らせていなかったが、本件が問題となってから、前記先物取引委託の手引の末尾に右事実を記載するようになった。また、営業社員は、右向かい玉の存在を意識せずに顧客に対して取引の助言、勧誘を行っていた。

(〈書証番号略〉)

(三) 実際に向かい玉の注文の状況を、平成元年七月七日受託分について見ると、次のとおりである。

オレンジ商品は、GNIに対し、銘柄により差があるものの全銘柄について、合計で売付け一〇九枚、買付け一三〇枚(合計二三九枚)を注文したが、例えば、オレンジ商品が受託したコーヒー七月限買付け一二枚に対し、泰平商事は同枚数を売付けし、オレンジ商品のコーヒー九月限買付け一〇枚、売付け二一枚の注文に対し、泰平商事は、その差である一一枚を買付けるなど、泰平商事は、合計売付け七九枚、買付け五八枚(合計一三八枚)を注文した。

しかしながら、オレンジ商品の右注文には顧客の仕切り分(「落ち玉」)が含まれているところ(前記七月限のコーヒーにつき、買付け一二枚のうち新規建玉は二枚で、残り一〇枚は仕切り分である。)、顧客が仕切れば、右玉については、その段階で差損益が確定するのであるから、泰平商事が新たに建てた自己玉(一〇枚の新規売建玉)に対当する委託玉は存在しない。

また、オレンジ商品側(泰平商事)で仕切りたいと考えている自己玉に見合う差玉がある場合には、右差玉枚数だけ処分予定の自己玉を仕切って、新たな自己玉の建玉をしない場合もあったが(例えば、前記九月限のコーヒーにつき、委託玉の売付けと買付けの差一一枚について、買付け一一枚を注文しているが、これはすべて自己玉の仕切り分である。)、これによって右委託玉と自己玉が将来利益相反する可能性はない。

そこで、前記事例において、これらを除外して、委託玉の新規建玉に対当して自己玉を新規に建玉した場合(向かい玉)を見れば、向かい玉は二一枚であって、委託総建玉数の約一割である。

(〈書証番号略〉)

(四) オレンジ商品らの自己玉の割合は、時期によって変動しているが、平成三年七月三一日時点の同日付けの売買のバランス表に基づき、自己玉の割合について見れば、委託玉の合計は三三七四枚であり、オレンジ商品の自己玉は合計五八六枚であるから(総建玉数は三九六〇枚)、オレンジ商品らの自己玉の割合(自己玉比率)は14.8パーセントである。

(〈書証番号略〉)

(五) また、自己玉の損益(各期の損益計算書の「自己売買益」と「自己売買損」の差額)は、オレンジ商品については、平成二年度の自己売買損が約一八九五万円、平成三年度の自己売買損が約一億一五〇一万円、平成四年度の自己売買損が約四三四七万円であって、合計約一億七七四三万円の損失である。また、泰平商事については、平成二年度の自己売買損が約一億〇〇三四万円、平成三年度の自己売買益が約二億一七一七万円、平成四年度の自己売買益が約五〇七八万円であって、合計約一億六七六一万円の利益である。さらに、ヤスタカ産業については、平成三年度の自己売買益が約一一二七万円、平成四年度の自己売買損が約七八六一万円であって、合計六七三四万円の損失である。

したがって、泰平グループ全体の自己売買損益は、平成二年度は損失が約一億一九二九万円、平成三年度は利益が約一億一三四三万円、平成四年度は損失が約七一三〇万円であって、差し引き約七七一六万円の損失を生じている。

(〈書証番号略〉)

(六) 甲山は、向かい玉には、①いわゆる「冷やし玉」の効果(例えば、委託者が買付け注文をした場合に、売付けの自己玉の注文があれば、入れないときよりは値が下がることとなり(売建玉の場合は逆)、とりわけ、取り組みの少ない閑散市場で場にさらされた委託玉は、商社や当業者らに狙われて、委託者の不利に相場が変動する危険が大きいので、これを防止する効用がある。)、②「ヘッジ玉」としての効果(委託玉のみの場合、相場の変動によって値洗い(先物取引業者の建玉をその日の帳入値段に引き直し、差損益金を市場との間で毎日受け払いすること)が損失となる場合には、会員が取引所に対し差損金(これを「場勘定」という。)を支払う必要があるが、自己玉を建てることによって場勘定を支払う必要がないようになる。)、③差金計算の回避(時間的、距離的、言語的な問題から、GNIとの間で各商品の差金の照合をすることは極めて繁雑で、トラブル発生のおそれがあるところ、向かい玉を続ける限り、市場における値洗い損益が発生しないため、差損金の支払業務を避けることができる。)、の各効果があるとして、向かい玉を建玉することを会社の方針としていた。

(〈書証番号略〉)

(七) 特に、海外先物取引の場合は、向かい玉を建てて売買の枚数を同一とすれば、前記のとおり場勘定を支払う可能性がないため、単に差金計算を回避できるに止まらず、手数料以外のリスクを正会員に与えないので、通常、業者が海外の正会員に対して損失に備えて担保として差し入れる委託証拠金が大幅に減免されていた。オレンジ商品も、GNIに対し、当初、委託保証金として二〇〇〇万円を差し入れていたが、向かい玉を建てることによって、預託すべき委託証拠金は、その後も相当減額されていた(もっとも、自己玉はいつでもはずせるから、その場合に備えた委託保証金は必要であり、また、委託手数料の担保としての委託保証金は必要であるので、相応の委託保証金を預託していた。そして、GNIは都合のよい時にオレンジ商品の差益損金と泰平商事の差益損金とを相殺により清算することができるものとされていた。)。

そのため、オレンジ商品は、その分、顧客からの委託保証金の相当部分を利用ないし運用することができたが、後記のとおり国内先物取引の場合には取引証拠金及び受託業務保証金制度や分離保管制度があるのと異なり、海外先物取引においては、右委託保証金の確保(保管)等について何ら規制がなかった。しかしながら、甲山は、右運用可能な委託保証金を不動産購入に充てて資産を保全し、資金が必要なときはこれを担保として銀行融資を受けるという方法を採ることによって、委託保証金の分離保管を行うことを企図して、委託保証金の多くを泰平商事グループ各社に貸し付けて、主として不動産購入に充てていた。

(〈書証番号略〉)

(八) 他方、国内先物取引の取引業者も、場勘定を取引所に納めずに済むという業者の利益がある上、委託者を保護する見地(例えば、委託玉の買建玉が多いため、ストップ高が数日続けば、証拠金にマイナスが出ることとなって委託者にとって不利益である。)からも、往々、右のような向かい玉がなされており、売り買いの枚数がほぼ同じという会社もある。もっとも、自己玉を自由にすれば、向かい玉によって委託者に損をさせるように誘導するおそれもあるため、「もっぱら投機的利益の追求を目的として、委託に係る取引と対当させて、過大な数量の取引をすること」は禁じられており(商品取引所法九四条四号、同法施行令三三条二号)、取引所の規則(自己玉の規制細則)において、自己玉の建玉については「専業型業者の自己玉は、当該限月ごとの総建玉の一〇パーセント又は一〇〇枚以下」との制限が加えられており、統計的には、国内取引業者の自己玉の割合は、平成五年九月末時点で約一一パーセントとされている。

そして、国内取引業者は、従前は、顧客から預託された委託保証金のうち、建玉の六、七割程度を取引証拠金及び受託業務保証金として商品取引所に預託し、その余の委託保証金を自由に運用していた。ところが、平成四年以降、業者が倒産した場合に備えて右委託保証金を保全する必要があるとして、業者自身の資金と区別して金融機関に預託する等の方法により右委託保証金を分離保管することとされ、平成七年四月からは建玉された分の委託保証金は一〇〇パーセント分離保管すべきものとされている(もっとも、建玉していない分に係る委託保証金については、従前どおり業者が運用できるものとされている。)。

(〈書証番号略〉)

2  一審原告らの主張について

以上認定の事実を基に、一審原告らの主張について判断する。

(一) 市場と断絶しているとの主張について

一審原告らは、オレンジ商品の取引は向かい玉によって市場と断絶されている旨主張するが、前記認定のとおり、オレンジ商品の注文はロンドン市場に通され、クロス取引により直ちに売買が成立しているのであって、市場との関係が断絶されているものではないから、採用できない。

もっとも、前記のとおり、一審原告ら委託者の注文は、クロス取引により売買されて、右約定値段の決定にあたって右注文自体が影響を与えていないが(甲山(原審))、委託者の多くにとって有利であって、前認定のとおりザラバ取引のロンドン取引所ではクロス取引が認められているのであるから、何ら不当ではない。なお、証拠(〈書証番号略〉)によれば、国内取引においても、商品取引員が同一商品の同一限月につき、同数量の売付け、買付け(委託玉につき対当する数量を有する場合及び委託玉の売付け、買付けに対して自己の計算で買付け、売付けを対当させる場合等)を同時に行おうとするときは、その節の立会い終了後速やかに取引所に申し出て、当該立会いで成立した値段によって売買約定を成立させること(これを「バイカイ付け出し」という。)ができるとされていることが認められるから、表面的に注文自体が値段形成に影響を与えていないこともって不当ということはできない。

(二) 顧客と利益相反関係に立つとの主張について

(1) 一審原告らは、向かい玉は、相場の変動により顧客が損をすれば業者は利益を得、反対に顧客が利益を得れば業者は損失となるから、顧客と向かい玉を建てる業者との利害は原則として相反しており、オレンジ商品において、顧客に損失が出るように誘導して、その損失を自己玉の利益によって取得する方法で委託保証金を取得した旨主張する。

(2) なるほど、右建玉の時点においては、相場の変動があって、全顧客の未決済取引の総体に評価損(益)が生じたときは、これと反対の関係に立つ自己玉の未決済取引の総体に評価益(損)が生じる関係にあるから、両者は利害が相反して対立関係にあるように見えなくはなく、顧客が損失を生じて仕切る時点で、オレンジ商品が反対売買を行って利益を得ることも考えられなくはない。

(3) しかしながら、オレンジ商品が確実に利益を上げるためには、少なくとも相場の変動を確実に予測できることが必要であるというべきであるが、優れた取引業者であってもそれが不可能であることは明らかであって(後記のとおり前記藤原ら先物取引に関係した者が一致して述べるところである。)、自己玉によって利益を取得することは、所詮不確実なものといわねばならない。

また、仮に、オレンジ商品らが、委託玉に損失を生じさせ、それに対当して建玉した自己玉で利益を得ようとするのであれば、自己玉と委託玉とを完全に向かいあわせて建玉をし、顧客を損失に陥らせて手仕舞いさせ、これと相反させて自己玉を手仕舞いすることとなるはずである。しかし、前認定のとおり、オレンジ商品の向かい玉は、総数の約一割強の差玉向かいに過ぎない上、自己玉の処分(仕切り)は、対当されて建玉された委託玉の処分とは別個に、委託玉の新規建玉に対して単なる差玉として仕切ることもあるなどオレンジ商品らの独自の判断に基づいてなされており、自己玉と委託玉とは一対一の対応関係に立っていないのである。

このことは、例えば、前記平成元年七月七日のコーヒー取引について、次のとおり委託玉の差損益と自己玉の差損益とが必ずしも相反する関係にはなっていないことからもいうことができる。すなわち、証拠(〈書証番号略〉)によれば、まず、右取引について、限月を無視して総額の損益を見れば、委託玉の帳尻損益は合計三万四四〇五ポンドの利益であり(委託玉の落玉明細)、自己玉の帳尻損益は合計八四九五ポンドの利益であるから(自己玉の落玉明細)、委託玉及び自己玉双方とも利益を得たことになること、個別に九月限について見ると、自己玉は、一一枚の買仕切りで合計一万二八〇〇ポンドの利益となったのに対し、委託玉は、売仕切り一枚が二一四〇ポンドの損失を出したが、買仕切り三枚は二八〇五ポンドの利益を生じたこと、一月限については、自己玉は、二三枚の売仕切りで三六八〇ポンドの損失を生じたのに対し、委託玉のうち、売仕切り一枚が一五〇五ポンドの損失であるが、買仕切り合計一九枚は、合計一万一四八〇ポンドの利益となっており、右限月を通じて見れば、自己玉が損失となり、委託玉が利益となっていること、さらに、三月限については、自己玉は、売仕切り五枚で六二五ポンドの損失であったのに対し、委託玉のうち、売仕切り二枚が二〇一〇ポンドの損失であるが、買仕切り合計二五枚は合計九五二五ポンドの利益となっていることが認められる。

そうすると、各限月間では、自己玉と委託玉とが双方利益の時もあり、損失もあり、また、自己玉が損失で、委託玉が利益の時も存在するのである。

(4) さらに、本件全証拠によっても、一審原告らの各取引における損(益)に対応してオレンジ商品らの益(損)が生じたこと、及び、オレンジ商品らが顧客に差損を発生させて、自己玉で差益を得るために向かい玉を建てたことを認めるに足りる証拠はない。むしろ、前認定のとおり、泰平グループ全体として見れば、平成二年度から平成四年度までに自己玉の売買によって合計約七七一六万円の損失を出しているのに対し、一審原告らの損益について見れば、第一陣(原判決「一事件」)提訴者三四名が、全体で委託保証金として一億〇三二五万六〇〇〇円を入金して、売買差益六一九万一一六二円(手数料の支払を除く。)を取得していることは、同一審原告らが自ら認めるところであるから、これは、オレンジ商品らが右向かい玉による利益獲得を意図していないことの証左ということができる。

(5) そうすると、一審原告らの右主張は採用できないといわざるをえない。

(三) 委託保証金の運用が不当との主張について

(1) 一審原告らは、オレンジ商品が委託保証金を自社で運用していたのは不当である旨主張する。

オレンジ商品が、向かい玉を建てることによって、顧客から委託を受けた委託保証金の多くをGNIに送金することなく、委託保証金の分離保管として、不動産購入に充てていたことは、前認定のとおりである。

(2) しかしながら、海外先物取引における取引業者は、法律上の問屋であって、委託者の売買の単なる仲介業務を行なうのではなく、自己の名で海外市場の正会員に対し売買の委託をするのである(海外先物取引法二条四項も「委託」と「委託の媒介取引」を明確に区分している。)。すなわち、オレンジ商品は、他人(委託者)の委託を受けて他人の計算において、海外市場の正会員GNIに対し、自己玉も含めて自己の名で注文するものであるが、その時点で委託者らの注文はその個性を失い、オレンジ商品自身の売買として一括して決済の対象とされることとなるのである(〈書証番号略〉)。

オレンジ商品は、前記のとおり委託者から委託保証金を徴収しているが、右徴収の目的は、オレンジ商品が委託者に対して有することのあるべき債権(手数料支払請求権及び損金支払請求権)を担保するためであり、顧客に損勘定が発生したときは、オレンジ商品は自己の債権としてこれを回収するのである。他方、オレンジ商品は、海外市場の正会員(GNI)に対し、オレンジ商品が売買を委託する取引に関して、GNIとオレンジ商品間の債権の担保のために、独自に委託保証金を提供しているのであって、その関係は切断されている(この理は、前記1の(八)記載の国内先物取引の商品取引員と委託者との関係、商品取引員と商品取引所との関係と異ならない。)。したがって、オレンジ商品が顧客から受け取った委託保証金をそのままGNIに委託しなければならないものではない。

そして、委託保証金の性質は、消費寄託ないし停止条件付返還債務を伴う金銭所有権の移転と解されるから、オレンジ商品において、委託保証金を運用したとしても、これによって直ちに違法となるものではない。なお、前記のとおり国内先物取引においては、商品取引所に差し入れる担保(取引証拠金等)の額が異なり、運用可能な額や保管方法等について規制がなされているが、海外先物取引においては何ら規制されていないから、右規制とは異なり、オレンジ商品が主として不動産購入に充てていたとしても、不当とはいえない。

3 以上によれば、オレンジ商品らが顧客の委託玉に対当して建てていた向かい玉は一割程度に過ぎない上(なお、一審原告らは、オレンジ商品の向かい玉は過大な数量の向かい玉に該当する旨主張するけれども、前認定の事実に照らせば、特に多いとは認めがたい。)、委託玉に損失を被らせて自己玉で利益を取得したとは認められず、向かい玉を建てることは、オレンジ商品にとって委託保証金の運用が可能になるという利点があるものの、その外に委託者にとっても利点があることをも考慮すれば、オレンジ商品が向かい玉を建てることによって一審原告らを欺罔した旨の一審原告らの主張は、いまだ認めるに足りず、採用することができない。

四  頻繁売買による手数料詐欺の主張について

一審原告らは、オレンジ商品は一審原告らに頻繁に無意味な売買を繰り返させて、異常に高額に設定した手数料を騙取した旨主張する。

1  手数料額について

そこで、まず、右主張の前提であるオレンジ商品の手数料額について検討する。

(一) オレンジ商品の手数料額について

主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 国内先物取引においては、商品取引所が委託保証金額及び手数料額を決定することとされている(受託契約準則九条二項、一六条三項)が、海外先物取引においては、右のような規制はなく、各業者が自由に委託保証金額及び手数料額を決定することができることとされている。オレンジ商品は、危険負担の可能性、当該商品の値動きの状況、顧客への利益還元等を考慮して、委託保証金額及び手数料額(往復)を次のとおり変更(多くは値下げ)した。

① コーヒー(売買単位五トン)

昭和六三年八月一日以前の委託保証金額は三〇万円、手数料額は五万円であったが、同年一二月一日手数料が三万八〇〇〇円に値下げされ、平成二年三月一日に委託保証金が一五万円と当初の半額に値下げされ、手数料が二万円と当初の半額以下に値下げされた。

② ココア(売買単位一〇トン)

昭和六三年八月一日以前の委託保証金額は三〇万円、手数料額は五万円であったが、同年一二月一日手数料が三万八〇〇〇円に値下げされ、平成二年三月一日に委託保証金が一五万円と当初の半額に値下げされ、手数料が二万四〇〇〇円と当初の半額以下に値下げされた。

③ 砂糖(粗糖、売買単位五〇トン)

昭和六三年八月一日以前の委託保証金額は二〇万円、手数料額は四万円であったが、同年八月一日に一旦委託保証金が三〇万円、手数料額が五万円に増額された。しかし、同年一二月一日手数料が四万二〇〇〇円に値下げされ、平成二年三月一日に手数料が三万円に値下げされた。

④ ガスオイル(売買単位一〇〇トン)

昭和六三年八月一日以前の委託保証金額は三〇万円、手数料額は五万円であったが、同年一二月一日手数料が四万二〇〇〇円に値下げされ、平成二年三月一日に手数料が三万円に値下げされた。その後、同年九月三日委託保証金が四五万円、手数料額が四万五〇〇〇円に増額され、同年一一月八日には委託保証金が六〇万円に増額されたが、平成三年六月三日に委託保証金が四五万円に値下げされた。

(〈書証番号略〉)

(2) ところで、平成三年四月二日時点の各商品の商品総代金(商品の一枚の代金、但し、その時々の相場によって上下しており、一定していない。以下「商品総代金」という。)を見ると、例えば、次のとおりである(なお、一ポンド二四五円七八銭(〈書証番号略〉)、一ドル一三九円七五銭(〈書証番号略〉)で換算した。)。

① コーヒーの九一年五月限の約定値段が一トン当たり六一二ポンド(一五万〇四一七円三六銭)であるから、一枚(五トン)の値段は七五万二〇八六円(円未満切捨て。以下同じ。)である。

② ココアの九一年一一月限の約定値段が七五四ポンド(一八万五三一八円一二銭)であるから、一枚(一〇トン)の値段は一八五万三一八一円である。

③ 砂糖の九一年五月限の約定値段が一九九ドル(二万七八一〇円二五銭)であるから、一枚(五〇トン)の値段は一三九万〇五一二円である。

④ ガスオイルの九一年九月限の約定値段が一六二ドル(二万二六三九円五〇銭)であるから、一枚(一〇〇トン)の値段は二二六万三九五〇円である。

(〈書証番号略〉)

そうすると、委託保証金の商品総代金に対する右時点における割合は、コーヒーが19.94パーセント(少数点第三位四捨五入。以下同じ。)、ココアが10.79パーセント、砂糖が21.57パーセント、ガスオイルが19.88パーセントであり(平均すれば、18.05パーセント)、手数料額の商品総代金に対する割合は、コーヒーが2.66パーセント、ココアが1.29パーセント、砂糖が2.16パーセント、ガスオイルが1.99パーセントである(平均すれば、2.03パーセント)。

(3) さらに、オレンジ商品の委託手数料が委託証拠金に占める割合は平成三年六月時点で、コーヒーが13.3パーセント、ココアが一二パーセント、砂糖及びガスオイルが各一〇パーセントである。

(二) 国内業者の委託手数料

次に、オレンジ商品の右手数料額と比較するために、国内先物取引市場(以下「国内公設市場」という。)の商品先物取引受託業者の手数料を見るに、各項末尾記載の証拠によれば、次のとおりであることが認められる。

(1) 国内公設市場において、オレンジ商品の取り扱い商品と同じ商品は、砂糖(粗糖)のみであるところ、その取引単位(一枚)は一〇トンであって、ロンドン取引所の取引単位(一枚五〇トン)の五分の一である。そこで、これを一トン当たりに引き直して比較すると、オレンジ商品の手数料は六〇〇円であるのに対し、国内公設市場の粗糖の手数料は、一枚当たり(新規及び仕切りの往復分、以下同じ。)七〇〇〇円であるから、一トン当たり七〇〇円となる。

(〈書証番号略〉)

(2) その余のオレンジ商品が取り扱っている商品(コーヒー、ココア、ガスオイル)は、国内公設市場では取り扱われていないため、手数料額を直接比較することができない。しかも、国内先物取引の委託手数料自体、商品の種類、売買単位及び数量が異なるため、一枚当たり五八〇〇円(パラジュウム)から一万〇四〇〇円(金)まで均一ではない。

そこで、商品総代金の中に占める手数料比率を比較してみると、例えば、次のとおりとなる。すなわち、小豆(取引単位八〇袋・二四〇〇キログラム)の平成七年五月二九日の引値による商品総代金は九五万六〇〇〇円であるところ、委託保証金は六万円であり、手数料は六〇〇〇円であるから、商品総代金に対する委託保証金の割合は、6.28パーセントであり、手数料の商品総代金に対する割合は0.63パーセント(手数料の委託保証金に対する割合は一〇パーセント)である。また、金(取引単位一キログラム、同日の引値による商品総代金は一〇四万二〇〇〇円)の委託保証金は四万八〇〇〇円であり、手数料は一万〇四〇〇円であるから、商品総代金に対する委託保証金の割合は4.60パーセントであり、手数料の商品総代金に対する割合は一パーセント(手数料の委託保証金に対する割合は21.67パーセント)である。

(〈書証番号略〉)

(3) また、国内業者の手数料の委託保証金に対する割合について見ると、取引されている一三銘柄の内一〇銘柄が一〇パーセントを越え、その内六銘柄は一五パーセントを越えている(三銘柄は二〇パーセントを越えている。)。

(〈書証番号略〉)

右認定のオレンジ商品の手数料額と国内業者の手数料額を基に比較すれば、一枚当たりの手数料額は、いずれの商品をとってもオレンジ商品の方が高いが(最も安いパラジュウムを基準とすれば3.45倍から7.76倍、最も高い金を基準とすれば1.92倍から4.33倍である。)、国内先物取引の場合も、商品が異なれば手数料額が大きく異なるから一概に高いということはできず、国内公設市場と同一商品については、一トン当たりの手数料額は、オレンジ商品の方が国内業者の場合よりも安いのである。また、手数料額の商品総代金に対する比率も、オレンジ商品の方が高く、その程度は、小豆を基準にすれば、コーヒーが4.2倍、ココアが2.05倍、砂糖が3.43倍、ガスオイルが3.17倍(平均すれば、3.22倍)であり、金を基準とすれば、コーヒーが2.66倍、ココアが1.29倍、砂糖が2.16倍、ガスオイルが1.99倍(平均すれば2.03倍)である。すなわち商品総代金に対する比率からすれば、オレンジ商品は、国内先物取引の場合の約二ないし三倍強の手数料を受領していたこととなる。

(三) GNIに支払う手数料との関係

次にオレンジ商品が委託者から受領する委託手数料額について、オレンジ商品がGNIに支払う手数料額と比較してみるに、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、オレンジ商品は、GNIに対し、当初、一枚当たり約二八〇〇円の手数料を支払っていたが、その後、取引量の増加と信用の増大によって値下げして、平成三年四月二日時点では、コーヒー及びココアの手数料(片道)が一枚当たりそれぞれ四ポンド(九八三円一二銭)、砂糖及びガスオイルが一枚当たり九ドル(一二五七円七五銭)、となっていたこと、時期によって変更があったが、顧客から受領する一枚当たりの手数料額の方が、オレンジ商品がGNIに対して支払う一枚当たりの手数料額の7.4倍から11.9倍であったこと(なお、平成三年四月二日時点では、右倍率は10.2倍から17.9倍である。)、これに対し、国内業者が商品取引所に支払う手数料(費用分担金)は、一枚当たり四〇〇円であるから、小豆については7.5倍であるが、金については一三倍であることが認められる。

右認定事実によれば、オレンジ商品は、GNIに対して支払う額の手数料額の一〇倍以上の手数料を委託者から徴収しているが、国内先物取引業者の場合も、同様の割合の手数料を取得しているものもあるから、この点からオレンジ商品の手数料額が異常に高額であるということはできない。

(四) まとめ

以上によれば、オレンジ商品と国内委託業者の一枚当たりの手数料額を単純に比較すれば、オレンジ商品が高いことは明らかであり、オレンジ商品の手数料額は、国内先物取引の場合より商品総代金に占める割合も約二ないし三倍強であり、高額であったものである。

しかしながら、商品の種類、売買単位、値動きが異なり、オレンジ商品の取扱商品が多量であるために手数料の絶対額が高くなったとも解され、単純に比較することはできない上(なお、商品の種類が同じ砂糖については、一トン当たりの手数料はオレンジ商品の方が低額である。)、オレンジ商品は、前記のとおり、ロンドン商品取引所に注文を繋ぐため、GNIに対し、国内業者が商品取引所に対し納付する手数料の二ないし三倍の手数料を支払っている外、市場(相場)の情報の収集・翻訳・国際間の接渉等に多大な経費を要しているものと解されるから、この経費を委託者が手数料の形で負担すべきことは当然である。したがって、オレンジ商品の手数料が国内業者より高くなるのはやむを得ないところであり、絶対額や商品総代金に対する手数料額の割合が右の程度高いことをもって、国内先物取引業者よりも異常に高額であると断ずることはできない。

なお、オレンジ商品は、GNIに対して支払う額の手数料額の一〇倍以上の手数料を委託者から徴収しているが、国内先物取引の場合も、商品によっては、同様の割合の手数料を取得しているものもある上、右GNIへの手数料支払は、オレンジ商品が負担する経費の一部に過ぎないから、この点からオレンジ商品の手数料額が異常に高額であるということはできない。

以上によれば、オレンジ商品が手数料を詐取するために、手数料額を異常に高額に設定したとは、本件証拠上認めがたいといわざるをえない。

2  取引の合理性について

次に、一審原告らは、オレンジ商品が相場の動向とは無関係に頻繁に両建、途転、同日売直し、買直し等の売買をさせていた旨主張する。

(一) 取引手法の合理性

そこで、まず、取引手法の合理性について検討するに、主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 将来の市場価格(相場)は、その商品特有の需給関係、天候、作柄、政治情勢、為替変動等の種々の要因や商社の買付け等の情報によって変動するから、委託者は、これらを分析し、また、過去の相場の動向をグラフ化した罫線(チャート)に基づき判断するなどして、相場をある程度予測することはできる(そのため、オレンジ商品ではこれらの情報を流していたことは前記のとおりである。)。

しかし、右予測が完全なものでないことは、相場が投機である以上当然のことであり、例えば、トウモロコシ等の穀物が不作によって現物市場で値上がりしたとしても、現物市場と異なり先物取引相場は、材料出尽くしとして逆に急激に値下がりをする場合もあり、且つ、その反落現象がどの程度、いつから始まるのか、また、その反発があるのか、いつあるのかといったことを事前に予測することは著しく困難であり、また、ガスオイルの相場が、中東情勢(湾岸戦争)の状況等によって激しく乱高下したことにも、右予測の困難性が顕著に顕れている。そして、相場は僅かな情報によっても値動きが左右され、かつ、どの情報を重視するかによって先行きに対する予測は、全く異なるのであって、先物取引は、常にその時点における委託者の相場の先行きに対する予測(思惑)に基づいて行われているのである。

そこで、オレンジ商品の委託者も、それぞれの局面に対する判断(思惑)の違いに従って、同一商品の同一限月につき売り注文をする者と買い注文をする者とがいるのである(例えば前記平成元年七月七日のコーヒーの取引について、委託者の新規売付けと新規買付けの枚数は、八九年九月限につき売建玉二〇枚、買建玉七枚であり、一〇月限につき売建玉二枚、買建玉一一枚であり、九〇年一月限につき売建玉七枚、買建玉一二枚であり、三月限につき売建玉一一枚、買建玉九枚である。)。

商品先物取引に長期間携わっている者も、相場を予想することが困難であることを一致して認めており、先物取引会社の内部で相場の予想につき意見統一をしておらず、同一会社の営業社員の中にも、相場に対する観方の違いから、顧客に売付けを勧める者と買付けを勧める者がいるのである。

(〈書証番号略〉)

(2) 一審原告ら主張の取引手法は、次のとおりである。

① 両建(同一商品、同一限月の玉につき、売りと買いを建てる手法)

両建を行うことにより、損失を固定化し、或いはそれまでの利益を確保することができ、しばらく相場の動向を見て、その後の相場の変動によって売建玉、買建玉のいずれか一方を手仕舞いして、他方の玉によって投機を行うことができるという機能があるとされている。

例えば、建玉により値洗損が発生した場合に、この時点で一旦手仕舞いをして、その後再度建玉する方法もあるが、この時点では手仕舞せずに、右時点の値洗差損を固定しつつ、次の相場によって投機を行うという思惑を有する者にとって有効な手法であり、意味があるとされている。続けて取引をする限り、いずれの方法によっても、委託保証金額や手数料額及び差損益金額は同一となるが、その時点では、反対方向の取引を新たに行うのであるから、そのための委託保証金及び手数料が必要となる。

なお、両建には右のとおり同一限月の反対玉を建玉する場合(この場合は損益に全く値動きがない。)の外に、多少でも利益の生じる可能性がある異限月の反対玉を建てる場合もあった。

(〈書証番号略〉)

② 両建同日切り(両建した売建玉と買建玉とを同時に手仕舞いすること)

例えば、委託者が、損失固定のため両建をしようとして、後刻証拠金を差し入れることを約して受託業者に買建玉を行うことを申し入れ、受託業者がこれを受け入れて買建玉を行ったが、期限が到来しても証拠金を差し入れることができなかった場合に、受託業者が必要証拠金の範囲で部分的に両建同日切りを行うことがある。

(〈書証番号略〉)

③ 同時両建(限月を異にする玉を同時に両建すること)

先物取引においては、各限月ごとに取引きが行われるので、同一商品でも限月が異なれば相場(値動き)は異なり、特に、受渡期日が早く到来する限月(期近)と遅く到来する限月(期先)とで値段が異なることがある(例えば、国内先物取引の平成七年五月二九日の東京トウモロコシの場合、期近の七月限は一万二七三〇円で九〇円値上がりであるのに対し、期先の五月限は一万四四三〇円で二八〇円値上がりであって、金額及び値上がり幅が相当異なっている。また、関西輸入大豆は、期近の六月限は五〇円値下がりであるのに対し、期先の四月限は二六〇円値上がりであって、値動きが全く異なっている。)。そこで、例えば、右関西輸入大豆のような場合に、将来、期近が値上がりし、期先が値下がりするとの予測の下に期近付近の限月の商品を買建し、期先付近の商品を売建して、両者の差額(鞘取り)を狙うことがある。

(〈書証番号略〉)

④ 同日売直し・買直し(ある玉を手仕舞いして、同日、異なる限月のものを売建又は買建すること。「限月移行」という。)

前記のとおり同一商品でも限月が異なれば相場が異なり、特に、前記東京トウモロコシの場合のように、期近と期先とでは相場が異なった動きをすることがあるので、委託者が、他の限月の相場がより有利であると考えて、右のような限月移行をすることがある(なお、一審原告らは、右「同日売直し・買直し」は、手数料稼ぎのために、ある玉を手仕舞いして、同日、同じ限月のものを売直し又は買直しすることであると主張するけれども、オレンジ商品が「同一限月のものを売直し又は買直し」したことを認めるに足りる証拠はなく、すべて前記限月移行であるから、採用できない。)。

(〈書証番号略〉)

⑤ 途転(ドテン。売建玉を手仕舞して買建てしたり、買建玉を手仕舞いして売建てをするなど、相場の途中で売買の方針を転ずること)

途転は、相場が反転すると予測した顧客にとって、意味のある取引手法であり、的確な予測ができれば、利益の大きい取引である。

(〈書証番号略〉)

(3) 国内先物取引においても、右各取引手法は意味ある取引方法とされており、前記藤原は、その時々の相場の状況等によって、資金力を勘案して適当な委託者に両建を勧めていた外、利益の出た両建、限月移行及び相場が激しく動く時に両建後直ちに一方を外すなどの右各取引を行うように委託者に勧めていた。

(〈書証番号略〉)

(4) ところで、国内先物取引においては、昭和四八年に商品取引所が「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」(以下「旧指示事項」という。)を定めて、これに抵触した場合は、当該取引員らに対し、厳しい制裁を課すこととされていた。その中で、次の各取引は、受託業者にとって、顧客との取引を継続して以後の建玉を期待することができ、手数料収入を確保することができるなどの利点があるため、手数料取得のためにその意味を誤導して勧誘することにつながりやすいとして、指示事項とされていた。

① 無意味な反復売買(ころがし)

短日時の間における頻繁な建て落ちの受託を行い、又は既存玉を手仕舞うと同時に、あるいは明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うこと

(説明)原則として、既存建玉を仕切ると同時に新規に売直し、買直し(同一限月及び異なる限月を含む)を行うこと、及び、同一計算区域内において、受託手数料幅を考慮していないと思われる建ち落ちを繰り返しているものを禁止する趣旨である。

② 両建玉

同一商品、同一限月について、売又は買の新規建玉をした後(又は同時)に、対応する売買玉を手仕舞いせずに両建することを勧めること

(説明)両建を利用して委託者の損勘定に対する感覚を誤らせることを意図したと認められるような次のような取引を禁止したものである。ア 同時両建(同一限月及び異なる限月を含む)を行っているもの。イ 引かれ玉を手仕舞いせずに反対建玉(両建)を行い、その後の相場の変動により利の乗った建玉のみを仕切り、短日時の間に再び反対建玉(両建)を行っているもの(因果玉の放置)。ウ 常時両建の状況になっているもの(常時両建)。

ところが、平成元年一一月二七日に右旧指示事項が廃止され、同日新しく「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」(以下「新指示事項」という。)が実施された。右新指示事項においては、不適正な売買取引行為として、「①委託者の十分な理解を得ないで、短期間の頻繁な売買を勧めること、②委託者の手仕舞い指示を即時に履行せずに新たな売買取引(不適切な両建を含む。)を勧めるなど、委託者の意思に反する売買取引を勧めること」を定め、これらを社会的信用の保持並びに委託者保護に欠ける行為として厳に謹むこととされた。

(〈書証番号略〉)

(二) 以上によれば、一審原告らの主張する各取引手法は、一般的には、国内取引においても取引手法として確立され、それぞれの思惑に基づいてなされる場合には、合理的な取引手法であるから、右各手法が、委託者の意思に沿って、その時の相場についての思惑を実現するのに合理的であったか否かが問題であり、これを抜きにして、一般的に右取引手法が頻繁に採られたからといって、直ちに違法、不当と断ずることはできない。

前記のとおり、国内先物取引の旧指示事項は、異なる限月のものを含め、両建や限月移行を禁止事項としていたが、一審原告らの取引のほとんどが行われた時期に実施されていた新指示事項においては、具体的な方法を示さずに、前記のとおり「委託者の十分な理解を得ないで、短期間の頻繁な売買を勧めたり、意思に反する売買取引を勧めること」を厳に慎む事項と定めているのも、右の趣旨であると解される。

なお、一審原告らは、利益両建(利益が出ている場合の両建、「利乗せ両建」ともいう。)は、損失の拡大を防ぐという両建の目的に矛盾し、利益が出ているにもかかわらず、反対玉を建てることにより、新たなリスクを抱えるので不合理である旨主張するが、両建は、利益(値洗益)を確保するという機能をも有し、建玉に利益が乗っているものの、相場が急落する危険性を感じた者にとっては意味のある取引と解されるから、直ちに不合理ということはできない(〈書証番号略〉)。

(三) 一審原告ら指摘の個別取引の合理性について

そこで、一審原告ら主張の取引手法が、当該時点において何ら根拠のない不合理なものであったか否かについて、若干の例について検討する。

(1) 同日両建て・同日切りについて

一審原告らは、同じ日に売りと買いを同枚数建て、これを同じ日に同時に仕切るならば、売買差損益は生ぜずに、手数料が二倍かかるだけなので、業者の手数料稼ぎを目的とした委託者にとって意味のない売買である旨主張し、一審原告8松尾建一の事例をあげている。

そこで、検討するに、証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告松尾は、平成二年一二月七日に、一月限のガスオイル二枚を二五八ドルで売付けると同時に、二月限のガスオイル二枚を242.50ドルで買付けていること、右売建玉については、同月一七日に二五七ドルで二枚とも買い仕切り、売買差益二万六四七〇円を得たこと(手数料控除後六万三五三〇円の差損)、他方、右買建玉についても、右同日に内一枚を244.75ドルで売り仕切り、売買差益二万九七七八円を得たこと(手数料控除後一万五二二二円の差損)、及び、残り一枚は、同月二七日に251.25ドルで売り仕切りして一一万八九五六円の売買差益を得たこと(手数料控除後七万三九五六円の差益)が認められる。

右認定事実によれば、限月が違えば値段も値動きも異なっており、売建てをした取引では僅かであるが売買差益が生じ、買建てをした取引でも値段が上がって売買差益が生じており、売建てと買建ての両面で利益が上っているのである。

一審原告ら主張の批判が妥当するのは、建玉の対象が同一限月であった場合だけであり、前記のように限月が異なる取引については、別個独立の取引として意味があり、利益を上げることも可能なのであるから、右主張は採用できない。

(2) 途転について

例えば、前掲各証拠によれば、一審原告松尾は、平成二年一二月四日に二月限のガスオイル一枚を261.5ドルで売付けて、二日後の六日に248.5ドルで買い戻して仕切ることにより、短期間に売買差益一七万二七〇五円(手数料控除後一二万七七〇五円の差益)を得たが、翌七日に同限月のガスオイル二枚を242.50ドルで買いに転じ、前記のとおりの利益(手数料控除後合計五万八七三四円の差益)を得たことが認められる。

右のとおり、同原告は途転することにより、双方で利益を得たのであるから、右途転が相応の合理性があったことは明らかである。

もっとも、相場であるから、買付けから売付けへの途転の場合に、相場の天井から値下がりに向かう反落の時期(逆の場合は反騰の時期)を見誤ってしまい、損失を被ることもある。例えば、証拠(〈書証番号略〉)によれば、訴外野元達也は、ココア相場の値下がりが続く局面において、前年の底値の値段から更に相当値下がりしたため、相場が反騰するとの思惑から平成四年四月二一日に売建玉を全て仕切って、買建玉のみとする途転買をしたが、その後も依然として値下がりが続き、結局損失を被ったことが認められる。しかしながら、「ココア取引の引値チャート」(〈書証番号略〉)から見れば、同人の右思惑は、右時点における思惑としては十分合理的であったと解され、事後的に判断して建玉や時期の妥当性を論じても結果論に過ぎないというべきである。

(3) 売り直し、買い直し(限月移行)について

① 例えば、前掲各証拠及び一審原告松尾の原審における供述によれば、同一審原告は、営業社員から、「限月が後れる商品は、後を追いかけるように値段が上がっていくから、ある程度上がった限月について仕切って利益を出し、値段が低い限月のものに替えて、その商品が上がることを期待する方法がある。」旨の説明を聞いて、右方法によって注文したこと、同一審原告は、平成二年一一月一六日に三月限を二枚買付けて、四日後の二〇日に仕切ることによって一五万三七二〇円の売買差益を得たこと、次に、右同日に四月限を二枚買付けて、翌二一日に仕切ることによって四万四五九〇円の売買差益を得たこと。さらに、右同日(同月二一日)に五月限に買い直して、同月二六日に仕切ることによって、七〇万九二四〇円の売買差益を得たこと(右各取引を通算して一〇日間の売買差益は九〇万七五五〇円であり、手数料を控除した後の差益は六三万七五五〇円であった。)、逆に、同一審原告は、営業社員から相場が反転して値下がりした旨連絡を受けて、平成二年一一月二八日に三月限を二枚売付けて、同年一二月五日に仕切ることによって三八万四二五〇円の売買差益を得たこと、右同日に一月限を二枚売付けて、翌六日に仕切ることによって二八万五六二七円の売買差益を得たこと、及び、同一審原告は、右同日(一二月六日)に三月限を三枚売付けて、同月七日に仕切ることによって、二五万六七一七円の売買差益を得たこと(右各取引を通算して一〇日間の売買差益は九二万六五九四円であり、手数料支払を控除した後の差益は六一万一五九四円であった。)が認められる。

右認定事実によれば、同一審原告は、限月移行によって買建玉、売建玉ともに相当な売買差益を得ることができたのであるから、右取引手法が合理性のない無意味な取引でなかったことは明らかである。

② もっとも、限月移行することなく、当該限月をそのまま維持して、的確な時点で仕切れば、手数料の支払が減額されることは明らかであるが、最も利益の大きい時点(買付けについては相場の天井、売付けについては相場の底)を確実に判断することは不可能であるから、一定程度の利益が出た時点で、利益を確保して、更に利益の見込まれる限月について取引をしていくとの考えは、先物取引の委託者として、必ずしも不合理とはいえない。例えば、三月限のガスオイルについて見れば、同一審原告が買建玉した平成二年一一月一六日及び売り仕切りした同月二〇日以降も値段が上昇し、同月二六日の引値260.40ドルが相場の天井であり、同月二七日の引値二五五ドル、同月二八日の引値253.50ドルと値下がりし始めている(〈書証番号略〉)。したがって、同一審原告が同月二六日、二七日に売り仕切りすれば、多額の売買差益を得ることができ、しかも、手数料の支払を一回で済ませることができたということができるが、相場の天井がいつ来るのかは、誰も予め確実に予測できないのであるから、一定時点で利益を確保することを考えるのは、委託者としてはあり得る選択であり、営業担当者がこれを助言し、勧めることを非難することはできない。

③ 一審原告らは、同じ銘柄であれば、限月が多少異なっても、相場の値動きが並行しており、限月移行は無意味である旨主張するところ、ガスオイルの平成二年一一月一二日から平成三年一月一一日までのロンドン市場先物取引場帳(〈書証番号略〉)を基に作成された「異限月値動きグラフ」(〈書証番号略〉)によれば、右期間のガスオイルの値動きは、限月が異なってもさして大きな相違はなく、並行しているということができる。

しかし、同じ銘柄でも、次のとおり、限月が異なれば、値動きが異なる時期もある。

すなわち、一審原告らが限月移行が多いと指摘する一審原告12鼻靖広について見ると、証拠(〈書証番号略〉)によれば、同一審原告がガスオイルの先物取引を行った平成二年八月から九月にかけては、いわゆる湾岸情勢の変化に応じてガスオイルの値段が激しく乱高下していた時期であること、当日引値を前日引値と比較すると、同一審原告が取引を開始した平成二年八月二四日は、一一月限が9.25ドル、一二月限が9.25ドル、一月限が七ドル、二月限が4.25ドルのマイナスであり、同月二八日は、一一月限が三七ドル、一二月限が三七ドル、一月限が三五ドル、二月限が33.75ドルのマイナスであり、翌二九日は、一一月限が17.75ドル、一二月限が16.50ドル、一月限が21.75ドル、二月限が三〇ドルのマイナスであり、翌三〇日は、一一月限が8.75ドル、一二月限が8.5ドル、一月限が13.5ドル、二月限が二一ドルのプラスであるなど、各限月によって値動き幅が大きく異なっており、並行していないこと、及び、同一審原告は、右時期の限月移行により、多額の利益を上げたことが認められる。

したがって、より高い差益を求める委託者が、より大きな値動きをすると予測した限月に限月移行することはありうるところであり、仮に限月が異なっても値動きが並行していて相違がなかったとしても、委託者が値動きに相違があるとの見込み(思惑)の下になしたのであれば、合理性がないとはいえず、右予測(思惑)が外れたに過ぎないというべきである。

(4) 同時両建

次に、一審原告らは、一審原告らすべてが両建しており、特に同時に売付けと買付けを両建するのは合理性がない旨主張し、一審原告31宮副直安について、同時両建が八回もなされている旨指摘している。

① 証拠(〈書証番号略〉)によれば、同一審原告の同時両建に関する取引経過は、次のとおりであったことが認める。

ア 平成二年八月二一日に、a一一月限のガスオイルを三枚買建玉すると同時に、b一〇月限を四枚売建玉しているが、aについては八月二四日に売り仕切りして九七万九四二五円(手数料控除後八八万九四二五円)の利益を得て、bについては同月二九日に買い仕切りして一一一万〇三三〇円(手数料控除後九九万〇三三〇円)の利益を得ているのであって、両方の限月の値動きの違いから両方の建玉で利益を得ている。

イ 同月二四日に、a二月限を四枚買建玉すると同時に、b一一月限を四枚売建玉しているが、aについては同年九月二六日に仕切って一五二万〇四〇〇円(手数料控除後一四〇万〇四〇〇円)の利益を得て、bについては八月二九日に仕切って二三二万〇三〇五円(手数料控除後二二〇万〇三〇五円)の利益を得ているのであって、両方の限月の値動きの違いから両方の建玉で利益を得ている。

ウ 同月二九日に、a一一月限を五枚買建玉すると同時に、b二月限を一〇枚売建玉しているが、aについては同年九月四日に仕切って一五七万〇八〇〇円(手数料控除後一四二万〇八〇〇円)の利益を得て、bについては同年八月三〇日に買い仕切りして一二一万三三七五円(手数料控除後九一万三三七五円)の利益を得ているのであって、両方の限月の値動きの違いから両方の建玉で利益を得ている。

エ 同月三〇日に、a一一月限を一五枚買建玉すると同時に、bの(1)一月限を一五枚売建玉し、bの(2)二月限を三枚売建玉した。aについては同月三一日に内五枚を仕切って五五万五八六八円(手数料控除後四〇万五八六八円)の利益を、同年九月五日に残り一〇枚を仕切って四六三万五七六二円(手数料控除後四三〇万五七六二円)の利益を得たが、bの(1)については、同年一〇月一一日に仕切って一八〇六万四八五六円(手数料控除後一八五一万四八五六円)の損失を、bの(2)については同年九月二六日に仕切って二九一万三四一二円(手数料控除後三〇〇万三四一二円)の損失を被った。したがって、同一審原告は、買建玉によって利益を得たが、売建玉によって大きな損失を被ったものである。

オ 同年九月四日に、a一月限を八枚買建玉すると同時に、b一〇月限を一五枚売建玉しているが、aについては翌日(同月五日)に仕切って四五万二九六〇円(手数料控除後九万二九六〇円)の利益を、bについては同月一一日に仕切って一七七万〇九七五円(手数料控除後一〇九万五九七五円)の利益を得ているのであって、両方の限月の値動きの違いから両方の建玉で利益を得た。

カ 同月七日に、a一一月限を一七枚買建玉すると同時に、b一一月限を三枚売建玉しているが、aについては同月一三日に内七枚を仕切って二九万〇五三五円(手数料控除後六〇万五五三五円)の損失を、同月二〇日に残り一〇枚を仕切って二七二万八〇〇〇円(手数料控除後二二七万五五三五円)の利益を、bについては同月一一日に仕切って三八万五四四七円(手数料控除後二五万五四四七円)の利益を得ているのであって、結果的には両方の限月の値動きの違いから両方の建玉で利益を得た。

キ 同月一一日に、a一月限を一五枚買建玉すると同時に、b一二月限を一〇枚売建玉しているが、aについては翌日(同月一二日)に仕切って五二万五七五〇円(手数料控除後一二〇万〇七五〇円)の損失を、bについては同月一四日に仕切って一一〇万〇八〇〇円(手数料控除後一五五万〇八〇〇円)の損失を被っており、両方の建玉で損失を受けた。

ク 同年一〇月一日に、a三月限を一五枚買建玉すると同時に、b一二月限を八枚売建玉しているが、aについては同月一九日に内五枚を仕切って二九〇万九七三七円(手数料控除後三一三万九七三七円)の損失を、同年一一月六日に内二枚を仕切って一三〇万三〇五〇円(手数料控除後一三九万三九五〇円)の損失を、同月九日に内二枚を仕切って九一万〇四五五円(手数料控除後一〇〇万〇四五五円)の損失を、同月一六日に内一枚を仕切って六二万七八四〇円(手数料控除後六七万二八七〇円)の損失を、同年一二月一二日に内二枚を仕切って一六七万七〇六〇円(手数料控除後一七六万七〇六〇円)の損失を、平成三年一月一八日に内一枚を仕切って一二〇万五九五〇円(手数料控除後一二五万〇九五〇円)の損失を、同年二月二〇日に内二枚を仕切って二五〇万八九八〇円(手数料控除後二五九万八九八〇円)の損失を、それぞれ被り(合計一一一四万三〇七二円)、bについては翌日(平成二年一〇月二日)に仕切って三〇四万四一六〇円(手数料控除後二六八万四一六〇円)の利益を得たのであって、同一審原告は、買建玉によって大きな損失を受けたが、売建玉によって利益を得ているのである。

ケ 同年一〇月八日に、a一一月限を一五枚買建玉すると同時に、b二月限を二四枚売建玉しているが、aについては同月一一日に仕切って一七八万三六三一円(手数料控除後一一〇万八六三一円)の利益を得、bについては同月一六日に仕切って一六四万三四〇〇円(手数料控除後五六万三四〇〇円)の利益を得ているのであって、双方によって利益を得ているのである。

② 以上のとおり、同一審原告は、同時両建を多用しているが、対象となる商品は違う限月であって、両方の限月の値動きの違いから両方の建玉(売り、買い)で利益を得ている場合が多いのであって、右利益金額が巨額であることから見ても、同一審原告にとって自己の思惑に沿った、合理的な取引であったものと認めるのが相当である。

(5) 相場の動きや情報との関係における思惑の合理性

ところで、委託者の相場に対する予想(思惑)は、前記(一)の(1)のとおりその当時の相場の動向、情報等によって形成されるものであるから、委託者の取った取引手法が右思惑との関係で合理的であったか否かは、これらを基に検討する必要があるところ、例えば、証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告3若松久男(コーヒー取引に関し)、一審原告12鼻靖広(ガスオイル取引に関し)、一審原告13千々和昌尚(コーヒー取引に関し)及び一審原告らとほぼ同一時期に顧客であった訴外野元達也(ココア取引に関し)は、いずれも、当時の湾岸情勢や商社の買付け等に関する「時事ファックス」等の情報及びチャートの見方等に従って値動きを予測して、これに即応した限月移行、途転等の取引をしていたこと、及び、同一審原告らは、相場の動き次第で数日ごとに取引をする場合もあれば、三か月間も取引をしないで状況を見る場合もあったことが認められ、右状況の下では、それなりに合理的な取引手法を採用していたものと解される。

(6) 以上によれば、営業社員が一審原告らに対して助言ないし勧誘した取引手法は、その時々の相場に対する対処方法として、利益の獲得・損失の減少を図るために、それなりの合理性があったものというべきであり(結果的に、利益を生じたか、損失を生じたかは、相場の結果である。)、相場の動向とは無関係になされたものとは、本件証拠上は認めがたいといわざるをえない。前記三の2の(二)の(4)認定のとおり、一審原告らのうち第一陣提訴者三四名については、全体を通じると売買差益(手数料支払控除前)を得ていることは、その証左ということができる。

(四) 以上によれば、一審原告らの行った取引手法は、一般的に行われている取引手法であって、その時々の相場の状況からみて合理性がないものと断ずることはできないというべきである。

3  取引の頻繁性について

次に、一審原告らのオレンジ商品における取引が特に頻繁なものであったか否かについて検討するに、取引の頻度は、前記のように相場の状況によって相当異なるため一概にいうことはできないが、国内先物取引の場合との比較や平均建玉期間が参考になるものと解される。

(一) 国内先物取引業者との比較

まず、国内先物取引業者と比較して、オレンジ商品の行っていた取引が頻繁なものであったか否かを検討する。

(1) 売買回転率

主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

① 先物取引業者の主たる収入源である委託手数料は、現在の建玉(残玉)が手仕舞いされる時に発生するので、国内先物取引業界においては、残玉に対して売買枚数が多くなり、売買回転率(一定期間の売買枚数を現在建玉している枚数(残玉)で除したもの)が高くなれば、手数料取得のために顧客に不必要に多数回の売買を勧めたためではないかと疑われて、取引業者の営業姿勢(営業方針)が問われ、許可更新時に問題となり、許可更新を円滑に進めることが難しくなるとされている(かつて一審被告乙川の在籍した国内先物取引業者は、売買回転率が約4.5回転であったため、許可更新が延期されたことがあった。)。

(〈書証番号略〉)

② オレンジ商品の平均的な月間の売買回転率は、例えば平成三年八月が1.72回転(出来高が六五五八枚、残玉が三八〇八枚)、同年九月が1.73回転(出来高が六七〇四枚、残玉が三八六六枚)、同年一〇月が2.03回転(出来高が七八八四枚、残玉が三八八〇枚)、同年一一月が1.66回転(出来高が六六二四枚、残玉が三九三〇枚)、同年一二月が1.39回転(出来高が六二一二枚、残玉が四四四二枚)であるから、同年八月から一二月までの月間の平均売買回転率は、1.71回転である。

(〈書証番号略〉)

③ これに対し、国内先物取引業者のうち上位に位置する会社の一般顧客の月間の売買回転率は平均1.67回転である。また、国内先物の全取引員(委託専業型)の平均売買回転率は、平成五年九月時点で、委託取引高が三か月間で一七五〇万五四一五枚(一か月平均五八三万五一三八枚)であり、委託建玉数が月間三五二万八〇七三枚であるから、約1.65回転である。

(〈書証番号略〉)

右認定事実によれば、オレンジ商品の右時期の売買回転率は、国内の先物取引員の回転率とほぼ同じ水準ということができる。

(2) 建玉比率

次に、委託保証金のうちどの程度建玉されているかを示す建玉比率について検討するに、各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

① まず、オレンジ商品の建玉数は、平成三年七月三一日時点で、コーヒー二三三七枚、ココア五七九枚、砂糖一七六枚、ガスオイル二八二枚であるから、これにそれぞれの銘柄ごとの一枚当たりの必要証拠金を掛ければ、委託者の総建玉枚数に対する必要証拠金の総合計は六億四六〇五万円となる。他方、委託保証金は七億六三九二万八〇〇〇円である。したがって、必要証拠金を預り証拠金で除したオレンジ商品の建玉比率は、84.5パーセントとなる。

(〈書証番号略〉)

② これに対し、国内取引員の平均建玉比率は、委託保証金の約八九パーセントとされている。

(〈書証番号略〉)

そうすると、オレンジ商品の右時期の建玉比率は、国内の先物取引員の建玉比率よりも若干低い水準ということができる。

(3) 仮に一審原告主張のようにオレンジ商品が意図的に無意味な売買を頻繁に繰り返していたとすれば、右割合、とりわけ売買回転率が高くなるはずである。しかるに、前記のとおり、オレンジ商品の売買回転率は、国内取引員の平均的な売買回転数とほぼ同様なのであって、このことは、少なくとも平均的な国内取引員以上に頻繁に売買がなされていないことを示すものということができる。

(二) 一審原告らの取引期間と建玉回数、建玉期間

次に、一審原告らの取引期間と建玉回数、建玉期間との関係において、頻繁な売買といえるか否かについて検討する。

(1) 一審原告らの委託者勘定元帳(〈書証番号略〉)によれば、一審原告ら七八名の平均取引期間は約7.25か月であり、平均的な建玉回数は15.58回であることが認められるから、一審原告らは、一か月平均2.15回建玉したこととなる。

(2) そこで、右平均建玉回数(2.15回)に近い事例について、平均建玉期間につき検討する。証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告39後藤誠は、約六か月間(契約日平成二年一〇月一日、取引終了日平成三年四月四日)取引を行ったが、その間に合計一七枚を一四回建玉したこと(月平均2.33回建玉)、同一審原告の一回当たりの平均建玉期間は、利益を得た取引については約11.66日間であり、損失を生じた取引については約40.33日間であり、通じれば約24.78日間であったことが認められる。

右認定の同一審原告の平均建玉期間は、さして短いとはいえず、頻繁に売買したとは解されない。

(3) 次に、建玉の回数が多い事例について見れば、前掲〈書証番号略〉(委託者勘定元帳)によれば、前記一審原告31宮副(契約日平成二年七月二六日、取引終了日平成三年三月一九日(取引期間約八か月間))の建玉回数が三五回であるから、月平均4.38回と、一審原告らの平均建玉回数の約二倍建玉したこととなる(ちなみに、取引回数(建玉と仕切りの回数、なお、同一日に建玉と仕切りを行えば二回である。)は八八回であるから、月に平均一一回である。)。

右によれば、同一審原告の建玉(取引)の頻度は、高いということはできるが、その内容を子細にみると、建玉回数が平成二年八月が一四回(取引回数二三回)、同年九月が一一回(取引回数二六回)、同年一〇月が八回(取引回数は一八回)と極めて多いために平均建玉回数が多くなっていることが明らかである(同年一一月以降建玉したのは、同年一二月七日と平成三年二月二〇日の二回のみであり、取引回数も同年一一月が七回、同年一二月が四回、平成三年一月が二回、二月が三回、三月が三回、四月が一回である。)。

ところで、平成二年八月、九月ころは、前記四の2の(三)の(3)の②で述べたとおりガスオイルの相場が湾岸情勢の関係で乱高下して、日々の値動きが極めて激しかったところ、同一審原告がその時期に多数回の取引を行って巨額の利益を上げていたことは前記四の2の(三)の(4)認定のとおりであるから、そのころに取引回数が多いことは、右のような相場の状況に照らして必ずしも不自然ではなく、また、取引回数が多いことが同一審原告に不利益となっていないものと認められ、当時の相場の状況、委託保証金額に沿った建玉状況ということができる。そして、同一審原告の一回当たりの平均建玉期間は、利益を得た取引については約15.94日間であり、損失を生じた取引については約33.47日間であり、通じれば約21.78日間であるから(〈書証番号略〉)、平均すれば建玉期間が必ずしも短いとはいえない。

なお、オレンジ商品の顧客で利益を取得して手仕舞いをした事例についてみると、証拠(〈書証番号略〉)によれば、右顧客は、最初の建玉日が平成二年一〇月五日であり、最終手仕舞い日が平成三年二月二二日であって、約四か月半の間に四二回建玉したこと、右顧客は、委託保証金として合計四三〇万円入金して、清算金として九四一万八一一一円の返還を受けたため、五一一万八一一一円の利益を得たことが認められる。そうすると、右顧客の建玉数は月平均9.33回であって、一審原告らの平均建玉回数の四倍以上を建玉したこととなり、平均建玉期間は極めて短かったこととなるが、右のとおり多額の利益を得て手仕舞いしているのである。

(4) 他方、建玉回数が少ない事例について見れば、証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告16白石英昭は、約六か月半(契約日平成二年八月二一日、取引終了日平成三年三月一五日)の間に合計二三枚を六回建玉(仕切り回数九回)したから、一か月平均0.92回建玉したことになること、同一審原告の一回当たりの平均建玉期間は、利益を得た取引については約56.75日間であり、損失を生じた取引については約59.6日間であり、通じれば約58.33日間であることが認められる。

右認定の同一審原告の平均建玉期間等に照らせば、同一審原告が頻繁に売買を繰り返したと非難することはできないというべきである。

(三) 以上によれば、本件証拠上、一審原告らの行った取引は、国内先物取引の売買回転率等との比較や平均建玉回数や平均建玉期間からして、全体を通じてみれば、頻繁であったとは認めがたいといわざるをえない。

4  無断売買、一任売買について

(一) 一審原告らは、「オレンジ商品の営業社員は、情報のない顧客に対し、都合のいい情報だけ流して、その意思を無視して頻繁に売買をさせた。」旨主張し、一審原告らの陳述書及び弁護士作成の陳述録取書、報告書(〈書証番号略〉)の中には「オレンジ商品の営業社員から頻繁に売買の勧誘等があったため、同人らの言うなりとなってその勧めのままに売買をしていた。」旨の記載がある。

(二) 意思確認について

そこで、まず、各取引に関する顧客の意思確認について検討するに、各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) オレンジ商品は、委託者の注文がその意思に基づいてなされたことを確認するために次のような措置をとっていた。すなわち、オレンジ商品は、注文がなされるたびに、前記二の2の(六)記載のとおり、毎回委託者に対し、注文内容を記載した注文伝票の控え及び「委託(売付、買付)報告書及び計算書」を送付していたが、右書面には、建玉の時は、成立日付、限月、数量等の建玉の内容、約定値段が記載され、仕切った時は、建玉した時の約定値段と仕切り値段が記載されて、売買差損益金額、手数料額、手数料控除後の差引損益額及び今回現在の帳尻金額が明記されており、委託者(顧客)は、毎回の売買内容や取引(仕切り)によりどれだけの売買差損益が生じたのかが分かるようになっていた。そして、右報告書には、「万一、取引内容に異議があれば、直ちに相談室に申し出ること、及び、申し出のない場合には相違ないものとして処理すること」が明記されていた。

(〈書証番号略〉)

(2) また、オレンジ商品は、前記二の2の(六)記載のとおり、少なくとも毎月一回(毎月末)には、残高照合通知書を委託者に送付していたが、右書面には、同日現在の委託者の建玉内訳(建玉の内容、値洗差損益額)、預り残高内訳(値洗差損益額、委託保証金額、帳尻金額)が記載されていた(なお、右書面は、国内先物取引においては法令上必要とされていたが、海外先物取引法所定の法定書面ではなく、オレンジ商品が国内先物取引業者に準じて作成したものである。)。そして、この外に、営業社員が委託者を訪問する際に、その時点の残高照合通知書を作成して、これにより建玉内容等を説明して直接交付することもあった。ところで、右書面は、三枚複写になっており、内二枚が顧客に送付され、顧客において、回答用の残高照合通知書(〈書証番号略〉)に取引の内容に相違があるか否かにつき記載して、署名捺印の上返送ないし交付してもらうこととなっていた。そして、右残高照合通知書にも、「顧客において取引内容等に異議があれば、同封の『相違申し立て書』により直ちにその旨申し出ること、回答がなければ相違なきものとして処理すること」が記載されていた。

(〈書証番号略〉)

(3) そして、一審原告らは、別冊「個別認定」で説示のとおり、「注文伝票の控え」、「委託(売付、買付)報告書及び計算書」に対し、異議を申し立てておらず、多くの場合、前記残高照合通知書に「相違なし」と記載して署名捺印の上、オレンジ商品に返送したり、営業社員に交付したりしていた(別冊「個別認定」の「残高回数」の項目参照)。なお、委託者の中で、建玉や委託保証金額に関して疑義を有する者は、実際にこれについて相違申し立てをしていた(例えば、一審原告6金丸一典)。

(〈書証番号略〉)

右認定の事実によれば、オレンジ商品は、「注文伝票控え」「委託(売付、買付)報告書及び計算書」及び「残高照合通知書」の各送付等により委託者の意思に従った取引がなされたか否かを確認していたところ、委託者から自己の意思に反する建玉や仕切り等がなされた旨の苦情や異議が申し立てられた形跡はなく、むしろ、多くの場合、残高照合通知書に相違なしと記載して返送されていたのであるから、委託者の意思に反した無断取引があったとは認めがたく、一審原告らは、自己の取引内容について認識していたものというべきである(なお、一審原告らの中で無断売買の主張をする者については、後に別冊「個別認定」で検討する。)。

(三) 誘導による取引について

そこで、次に、営業社員が一審原告らの多くを誘導して意のままに取引をさせていたか否かについて検討する。

(1) まず、オレンジ商品が勧誘の際に顧客に確認を求めていた確認書には、「売買注文については、貴社に一任する事なく、全て私の意志と責任に於いて実行し、その結果についても一切貴社には責任を問いません。」との条項が置かれており、顧客は、平成元年以前に契約した極く僅かな例外を除いて、すべてこれを了承していたことは、前記二の2の(二)認定のとおりである。

(2) そして、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、甲山は、営業社員に対し、後日無断売買と非難されないようにするため、顧客から電話で注文を受ける際に、注文伝票に注文の最終合意の要点を簡単にメモ書するように指示していたが、右注文伝票のメモ書の中には、例えば、一審原告13千々和昌尚の平成二年四月一二日付け注文伝票に「途転して下さい(本人より指示)」、或いは、同年六月一三日付け注文伝票に「二枚買建てて下さい。」とのメモ書が残されていたこと、同一審原告は、コーヒー取引を行っていたが、当時相場は値下げ基調で、反騰の可能性とその時期が問題となっていたこと、同一審原告は、担当営業社員の一審被告松尾が両建するように助言、勧誘したにもかかわらず、これを採用せずに買いの方針を通しており、しかも、状況を見るため長期間取引をしないまま推移していたこと(同一審原告の平成二年五月から翌年二月までの一〇か月間の建玉は、平成二年五月二回、六月二回、七月一回、一二月一回、平成三年二月二回の合計八回に過ぎない。)、また、例えば、一審原告30古賀正俊は、営業社員から平成二年一二月以降たびたび新しく建玉するように助言されたが、これを断り、同月五日に一枚建玉した後は、同月一一日と同月一四日に仕切り注文をしたのみで、最終手仕舞いの平成三年三月一一日まで約三か月間一度も建玉しなかったこと、同様に、営業社員から当然取引の助言があったと思われるにもかかわらず、長期間取引をしていない者がいること(例えば、前記のとおり訴外野元達也は、平成四年一月八日から同年四月二日まで約三か月一度も取引をしていない。)、及び、一審原告37加藤靖雄は、オレンジ商品が平成二年一一月ころ実施したアンケート調査において「営業担当者が不在の時の取引(相場)相談ができなく、翌日や翌々日に延びるため、困る時がある。電話を入れた時不在の時など、のちに電話を返して頂ければ助かります。」と回答していることが認められる。

右認定事実によれば、一審原告らの中に、営業社員との間で相場について相談して、営業社員の助言に従わずに独自の判断で取引をしたり、長期間取引をしない者がいたことは明らかである。

(3) 他方、証拠(〈書証番号略〉)によれば、オレンジ商品の営業社員らは、前記月刊情報誌等において、相場の動向、思惑についての自分の見解を表明していたが、顧客に対しても、相場の局面を説明し、相場の先行きに対する自分の思惑等を説明して具体的な取引内容を提示して助言、勧誘していたこと、オレンジ商品は、前記残高照合通知書や週刊・月刊情報誌等に「お客様への確認」として、「オレンジ商品の予想は、一つの見解であって、確実なものではない。」旨繰り返し警告していたこと、国内先物取引においても、さほど経験や能力を有していない一般の委託者は、登録外務員に対して全面的な依頼心を起こしがちであるとされていること、及び海外先物取引相場に詳しくない顧客が、右相場に関する専門家である右営業社員らの助言、勧誘に従った場合もあったことが認められるから(この点は、前記注文伝票のメモ書の中には、「移行しましょう。ハイ」「途転しましょう。わかりました。」等営業社員の勧誘に応じて取引がなされた旨の記載があること(〈書証番号略〉)、委託者の注文が、営業社員の右助言、勧誘に従ってなされた場合も多かったであろうことは容易に推認できるところである。

(4) しかしながら、一般的に、営業社員が一審原告ら顧客に対し、相場の値動きの状況、値動きの要因、対処方法等を説明して、具体的な取引について助言、勧誘するのは、この種業態の通常の営業行為であって異とするに足りず(国内先物取引の登録外務員必携「受託業務の基礎知識」(〈書証番号略〉)においても、登録外務員が委託者に対し相場分析、判断について助言する職務を有することを認めている。)、顧客が右助言に従って注文したとしても、一般投機家である顧客が、先物取引の相場予想が困難であるため、専門家たる右営業社員の右説明に納得して、自己の判断として右助言を受け入れた結果と見ることも十分可能と解される。

そして、一審原告らは、二〇歳代ないし三〇歳代の成年の有職の男子であるから、一般的に社会性や判断能力に乏しいと考えられる老人や主婦とは異なり、通常、相応の判断能力があるというべきである(前記のとおり、オレンジ商品の予想が一つの見解に過ぎない旨の警告もなされている。)。

また、前記二の3認定のとおり、オレンジ商品は、毎日テレフォンサービスによって海外市場の値動きのみならず、相場に関する客観的な各種情報を提供し、さらに、前記週刊情報誌等や月刊情報誌等によって先物取引及び商品、相場の要因、相場の動向、推移等について解説していたから(なお、委託者は、海外先物取引の市況等については日本経済新聞で知ることもできた。)、委託者としては、相場の先行きに関して営業社員の情報とほぼ同程度の情報を有しており、しかも証拠(〈書証番号略〉)によれば、オレンジ商品の前記アンケート調査の結果、一審原告らのうち回答した一七名中、一五名がテレフォンサービスを利用したことがあると回答しており、残高照合通知書を確認している者が九名、時々確認している者が八名である旨回答していること、テレフォンサービスの利用者は、平成元年一月から平成三年一二月まで累計一三万六四八四名であり、平成三年では一か月平均四七六八名であったこと、例えば、平成三年一二月のテレフォンサービスの利用者は四六四八名であるから、一か月三〇日として一日平均一五五名が利用していたことになるところ、当時の顧客数が五八〇名であるから、顧客が毎日テレフォンサービスを利用していたと仮定すれば、顧客の約二七パーセントが利用していたこととなること(一か月をロンドン市場が開かれている二二日で計算し、かつ、毎日テレフォンサービスを利用していたとすれば一日平均二一一名となり、約三六パーセントが利用していたこととなる〔なお、前記アンケート調査においても一週間に一回しか利用していない者がいるから、右各人数や割合はあくまで少なめに見積った仮定のものである。〕。)が認められるから、顧客は相場の状況や取引内容について把握していたものということができる。

実際にも、オレンジ商品の顧客の中には、同一商品、同一限月について、今後値上がりするとの思惑の下に新規に買付ける者と、値下がりするとの思惑の下に売付ける者がおり(そのため、オレンジ商品らにおいて差玉向いをしていたことは前記のとおりである。)、例えば、前記三の1の(三)で説示した平成元年七月七日のコーヒーの取引について見れば、委託者の新規売付けと新規買付けの枚数は、八九年九月限につき売建玉二〇枚であるのに対し買建玉七枚、一〇月限につき売建玉二枚に対し買建玉一一枚、九〇年一月限につき売建玉七枚に対し買建玉一二枚、三月限につき売建玉一一枚に対し、買建玉九枚がそれぞれ建玉されている(〈書証番号略〉)が、これは、顧客が各人の思惑に従って個々的に判断をしたことを示すものであり、営業社員が顧客に対して取引を一定方向に向かって勧誘・誘導していないことの表れということができる。

さらに、前掲〈書証番号略〉によれば、前記アンケート調査において、サービス部(お客様相談室)を一四名の者が知っていたが、一度も利用していないこと、及び、「担当者とうまくいっている。」と答えた者が二名、「まあまあうまくいっている。」と答えた者が一三名であることが認められるところ、仮に一審原告らがその意に反して営業社員の言いなりに取引をさせられていたとすれば、右アンケート調査の際に、その旨の不満や異議が記載されるものと考えられるが、右アンケート調査に回答した大多数の一審原告らが「担当者との間はまあまあうまくいっている。」と回答していることに照らせば、顧客の意思を無視した、顧客に不満を残すような取引が行われていないものと推認するのが相当である。

以上によれば、営業社員が、種々有益な情報を取得しうる委託者に対し、誘導して意のままに取引をさせることが一般的に可能であったとは認めがたく、また、実際にも委託者が営業社員にすべて任せきりにしていたと認めるには足りないといわざるをえない。

(5) このことを、別件刑事事件の検察官面前調書(〈書証番号略〉)が提出された一審原告75池田大(契約時二三歳)について検討するに、同一審原告は、別件刑事事件において、オレンジ商品の営業社員の一審被告荒巻、同甲斐及び同丸山(但し、いずれも本件対象外)らから欺罔されて強引にサラ金から借り入れさせられ、頻繁に取引をさせられて、委託保証金を詐取される被害を被った旨供述しているのであるが、右調書を子細に検討すれば、次のとおり、同一審原告が、営業社員の取引に関する助言を受けて、自己の判断でそれに従った取引をしていたものと解するのが相当である。

すなわち、同一審原告は、右検察官面前調書において、「平成三年八月八日に早期決済を依頼するため、オレンジ商品に電話して右荒巻に決済の申し入れをしたところ、同人から『今値上がりしているところなので、もう少し見て下さい。』と言われたため、『値上がりしているのであれば、もう少し待った方が利益が大きくなるので、その方が良い。』と考えて一週間程手仕舞いを延ばすことを承諾した。」旨供述している。

右供述によれば、同一審原告が、荒巻の買建玉が値上がり傾向にあるので手仕舞いを暫く延期した方が得である旨の助言を受け入れて、自己の判断として手仕舞いを止めたものと解される。

次に、同一審原告は、本件における陳述書(〈書証番号略〉)において、「八月になって、荒巻は『とにかく悪いようにはしないので、私に任せておいて下さい。』というばかりで、私がいくら決済を依頼しても、『今のままでは損をします。もう少し様子を見られて下さい。今のままでは決済はできません。』と断り、『いくら建てます。』、『いくら仕切ります。』と勝手に取引を続けられてしまいました。」と陳述している。

しかしながら、同一審原告は、前記検察官面前調書において、当該部分について、「八月一二日に決済を依頼するために電話したところ、荒巻から『四〇万円か五〇万円の損が出ています。』と言われたため、決済はどうなるか尋ねたところ、同人から『このまま取引を止めたら損のままです。何とか損を取り返してから決済しましょう。』と言われた。このまま取引を止めたら返済にも困るので、何とか損を取り返さなくてはと思い、納得してこれを承諾しました。」と供述しているのであるから、同一審原告が、荒巻の決済延期の助言を受け入れて、自己の判断としてこれを承諾したものと解され、前記陳述書の供述部分は、たやすく措信できないといわざるをえない。

さらに、同一審原告は、本件における前記陳述書において、「八月二〇日頃、ソ連のクーデターで相場が下落したなどと言って両建にさせられました。」と陳述している。

しかしながら、同一審原告は、前記検察官面前調書において、当該部分について、「テレビのニュースでソ連のクーデター発生を知って、ココア相場が値崩れしないか心配となってオレンジ商品に電話したところ、その時は大丈夫と言われた。ところが、翌日になってココア相場が値崩れした旨連絡を受けた。」旨供述しているのであるから、右供述によっても、同一審原告の方から積極的に連絡をとったことが認められ、受動的に営業社員の指示のままに取引したとは認めがたい。

なお、同一審原告は、右調書において、「勧誘の際に交付された書面を見ておらず、荒巻から任せて貰えれば損をさせないと言われていたので、同人の言うとおりに取引をしていた。」旨供述しているが、サラ金から借り入れて多額の資金を投入した者として、勧誘の際に交付されて自分の手元にある前記海外先物取引の手引や確認書等の書面(以下「勧誘関係書面」という。〈書証番号略〉)を見ないまま放置していたというのは不自然の感を否めない。また、前記のとおり、同一審原告がソ連のクーデター発生を知ってココア相場の値崩れを心配してオレンジ商品に連絡をとった旨供述しているのであるから、右供述によっても、同一審原告が右相場の動向に強い関心を持っていたこと、しかも、相場に影響を及ぼす要因(ソ連のクーデター発生がココア相場に与える影響)について的確な判断を下していたこと、及び、同一審原告の方から自主的にオレンジ商品に連絡して、相場の動向について相談、確認していたことが認められる。

そうすると、同一審原告が、何もわからないまま荒巻の言うとおりに取引をしていたと見るには疑問の余地があるといわざるをえない。

(6) 以上によれば、たとえ一審原告らが営業社員の助言、勧誘に従った取引をしていたとしても、それは、一審原告らが右営業社員の右説明に納得して、自己の判断として右助言、勧誘を受け入れた結果と見るのが相当な場合も多いものと解され、営業社員の意のままに操縦された結果と断ずることはできないといわざるをえない。

一審原告らは、顧客には相場に関する情報がなく、営業社員が都合のいい情報だけを流していた旨主張するけれども、右主張を認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり顧客の少なくとも約三割は実際にテレフォンサービスによる情報を入手していたと解され、そうでなくとも、顧客が容易に右テレフォンサービスを利用できる状況にあるのであるから、営業社員において自己に都合のよい情報のみを伝えて思いどおりに建玉させることを企図するとは認めがたく、採用することができない。

なお、前記注文伝票のメモ書の中には、「買付けます」「売付けます」「途転します」「移行します」等の断定的な記載がなされているものがあるが、これは、注文の際に営業社員が顧客に対し「売付けます」等の断定的意思表示をしたことを記載したものではなく、前記のとおり最終的な注文の要点をまとめる趣旨で記載されたものと解されるから、右記載は前記判断を左右するに足りるものではない。

5  オレンジ商品の経営方針

(一) 一審原告らは、オレンジ商品が一審原告らから手数料を詐取する意図の下に、会社の経営方針として、組織的に頻繁に売買を繰り返させていた旨主張し、オレンジ商品の元従業員である訴外占部広宣のユニオンコーポレーション刑事事件に関する検察官面前調書(〈書証番号略〉)中には、オレンジ商品では顧客が手仕舞いを申し出ても取引を継続して顧客に損をさせていた旨右主張に副う供述部分がある。しかし、右供述調書の記載によっても、右は取引手法における頻繁売買について述べたものではない上、同人は、勧誘のみを担当していた新入社員であって、取引の実際には全く関与していなかったというのであるから、右主張を認めるに足りないというべきである。また、証拠(〈書証番号略〉)によれば、オレンジ商品の営業社員の中には、別件刑事事件の捜査段階において会社ぐるみの詐欺行為を認める趣旨の供述をした者がいたけれども、右事件の公判廷においては、証人として右供述を否定する証言をしていることが窺われるから、これも前記主張を認めるに足りる証拠ということはできない。

さらに、一審原告らは、委託保証金額に対する手数料の割合が大きく、取引で多少売買差益を得ても手数料で多額の損失を被ったのは、オレンジ商品が手数料稼ぎの経営方針を採用していたことの証左である旨主張する。

しかし、手数料額は、前記四の1認定のとおり、異常に高額に設定されていたものとは認めがたい上、建玉の仕切りの際に発生するのであるから、利益を得て取引の回数や枚数を重ねて行けば累計した手数料額が増大するのは当然であり、これをもって直ちに不当ということはできない。例えば、証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告3若松久男は、委託保証金として一九〇万円を入金してコーヒーを合計三六回取引した結果、売買差益六万三五一六円を得たこと、しかし、同一審原告は、手数料として合計一七〇万二〇〇〇円を支払ったため、消費税控除後の清算金は二一万〇四五六円に過ぎなかったことが認められる。しかし、同一審原告は、一枚三〇万円の委託保証金を要するコーヒーを二九枚(合計八七〇万円)、一枚一五万円(値下げ後)の委託保証金を要するコーヒーを三〇枚(合計四五〇万円)取引したのであるから、合計一三二〇万円の委託保証金を預託して行うべき取引を行い、その対価として右手数料一七〇万二〇〇〇円を支払ったものと解される。そうすると、その割合は、12.9パーセントであるから、手数料の割合として直ちに不当ということはできない(一審原告らは、手数料額の入金額に対する割合が89.5パーセントであるとして非難するが、採用することができない。)。

(二) かえって、主として各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 甲山は、過去、海外先物取引業界に悪質業者が多数いたため、海外先物取引業者に対する社会的評価が非常に厳しく、相場で損失を被った委託者が受託業者に対して苦情を述べて紛争となる可能性が高いものと自覚していた。しかも、営業社員と委託者との間の言動の有無はいわゆる水掛け論となりやすく、また、会社内部の行動は、判然としないことが多いことから、これらのことが紛争処理にあたって問題視されることがあると予測していた。そのため、甲山は、営業社員が顧客との間で契約内容等についてトラブルを生じないように、前記確認書等の書面を作成して署名捺印を求めることを励行するように指示するとともに、営業社員等の社員教育のために、毎週月曜日午前中に泰平グループ全従業員を集めて勉強会を開催して、当初は毎週、後に毎月一回ないし三回、顧客を大切にしてトラブルを起こさないようにして会社の利益と調和を図りつつ営業することを強調する講演を行っていた。右講演内容については後日のために書面や録音として残していたが、右勉強会において、甲山が会社の利益のために反復売買を繰り返させて手数料を多く取得するように指示した形跡はない(なお、後に右勉強会の講演内容はまとめて書籍として出版されている。)。

また、甲山は、泰平グループの各種会議の議事録も社内報等で公表して従業員に周知させるとともに、幹部社員に対して業務日報の作成を義務づけるなど、オレンジ商品の営業状況を書面として残しておくことを普段から配慮していたが、オレンジ商品の営業の責任者であった一審原告丙田から甲山に対する業務日報において、同一審被告が朝礼やミーティング等で、営業社員に対し、顧客に反復売買を繰り返させる取引を助言、勧誘して手数料を多く取得するように指示していることを窺わせるような記載は見当たらない。

(〈書証番号略〉)

(2) 甲山は社内報(平成二年六月号)において、「先物取引の業界は、無利子の資金が集められ、その運用如何によっては短期間的に会社が発展を遂げることも可能である。したがって、皆さんも無理して手数料を稼ぐ必要など全くない。お客様本位で商いしていて、健全な先物取引愛好家を沢山育てていけば、オレンジ商品の発展はもとより社会的貢献にもつながる。」旨記載して、手数料を稼ぐために無理な営業をする必要がない旨述べているが、これに先立つ平成元年一一月四日開催の管理職会議においても「徹底して顧客の立場に立って商いを行い、かりそめにも無意味な反復売買などあってはならない。」旨指示していた。

(〈書証番号略〉)

(3) また、オレンジ商品では、紛争防止等の各種業務命令のため、役員会の決定や社長通達、営業本部長通達、管理サービス部通知等の各種通達が発せられ、営業各課に回覧されたり、壁に張られるなどして周知されていたが、平成二年六月八日には「商いの責任者を明確にし、無理な商いが原因でトラブルが生じたときは厳重に処分する。」旨の営業本部長通達が発せられた。

(〈書証番号略〉)

(4) ところで、オレンジ商品の営業社員の給与は、国内先物取引業者に比較してさして高額ではなく、そのうち加給金(歩合給)は、新規顧客を獲得した場合に支給されるのが原則であった(平成四年八月三日時点の規定によれば、営業社員の場合は、新規入金の1.5パーセントが支給され、月に五件獲得すれば、更に加給金が五万円(六件以上は一件につき二万円増加)が支給されることとされていた。)。また、昇格は、副主任、主任までは新規顧客の獲得(新規入金額)を基準としており、それ以上の昇格の際は社員管理等の要素が加味されていた。

なお、一審被告辛島は、固定給が月額約一六、七万円であったが、加給金は営業成績次第のため、加給金がない月もあれば、八万円位ある月もあった。また、営業社員の訴外山本の場合は、給与が月額二五万円位で、そのうち加給金(歩合給)は二年間を平均して月額約五万円であった。

(〈書証番号略〉)

(三) 右認定事実によれば、甲山は、社内報や会議の席上で手数料を得るために無理をしてはならず、無意味な反復売買などあってはならない旨指示しており(なお、右議事録が改ざんされたと認めるに足りる証拠はない。また、右発言や業務日報の記載等は、毎日の日常的な発言や報告であって、長期間にわたって記録されており、詐欺の事実を隠蔽するためにことさらに偽装したものと認めるに足りる証拠もない。)、営業社員の加給金(歩合給)や昇格、昇給も新規顧客を獲得したことを基準としており、また、その額が異常に高いとも認められないから、前記四の1の(一)の(1)認定のとおりオレンジ商品が顧客の負担を軽減するため手数料額を数度にわたって大幅に値下げしていることをも考慮すれば、本件証拠上は、オレンジ商品が経営方針として、手数料取得のため、殊更に頻繁売買を勧誘していたとは認めるに足りないといわざるをえない。

6  頻繁売買による手数料詐取の主張に関するまとめ

以上によれば、オレンジ商品の手数料が異常に高額であったとはいいがたい上、一審原告らの売買が、合理性に欠ける頻繁な売買であって、オレンジ商品の営業社員が顧客の意思を無視して意のままに取引をさせ、しかも、オレンジ商品がそのような経営方針を採用していたと認めるに足りる証拠はないから、一審原告らの前記主張は採用することができないといわざるをえない。

五  勧誘方法等における違法の主張について

1  はじめに

一審原告らは、一審被告馬渡ら営業社員は、海外先物取引法や商品取引法、受託契約準則、商品取引所指示事項等に違反して、自己資金を保有せず、先物取引を行うのに適しない一審原告らに対し、利益が確実と誤信させるような断定的判断を提供したり、不当な方法で勧誘した上、サラ金で資金を借り入れさせ、その後も無断売買を行い、更には手仕舞いを拒否するなどの違法行為をした旨主張する。

もとより、海外先物取引法は、取締法規にすぎない上、国内先物取引に関する各法規やその内部的取決めである受託契約準則、指示事項等が、本件のような海外先物取引に直ちに適用されるものではないから、右規則に違反する行為がなされたからといって、委託者との関係において直ちに違法行為ということはできない。

しかしながら、前記二の1の(一)認定のとおり、先物取引が、委託保証金を預託して差金決済することにより、少額の資金で多額の取引をすることが可能であり、思惑どおりに値動きをしたときは高率の利益を得ることができるものであるが、反面、予測が外れたときは高率の損失を余儀なくされる極めて投機性の高い危険な取引であり、しかも、右値動きは、各商品ごとに社会的、経済的、気象的、政治的等の諸般の要因のみならず、商社の買い付け等のその時々の情報により絶えず変動するものであって、右相場の動向を的確に把握することは、専門的に情報を収集し分析している業者にとっても困難であり、先物取引に関する知識、情報、経験に多大の格差がある一般投資家にとっては尚更であるから、右各法規や指示事項等は、委託者が不測の損失を被らないようにするため(海外先物取引法一条)の具体的指針を示したものと解される。しがたって、右各規制は、民法上の不法行為の違法性判断にあたっても基準となり、右各規制等に著しく違反する場合は、海外先物取引としても相当性を欠き、委託者の年齢、知識、経験の有無、財産、収入、資力、取引程度、取引額等をも総合考慮して、委託者の右危険性についての判断を誤らせるような態様の取引と認められる場合には、社会的相当性を逸脱するものとして違法との評価を免れないというべきである。

そこで、以下、この見地に立って、検討する。

2  不適格者の勧誘について

(一) 前記のとおり、先物取引は、極めて投機性の高い危険な取引であり、しかも、右値動きは、諸般の要因、時々の情報により絶えず変動し、相場を予想することは極めて困難であるから、先物取引を行おうとする者は、先物取引及び商品に関する知識や情報、これを基に相場の動向を洞察する判断力及び損失を被ってもこれを許容できるほどの資金的な余裕を有する者をもって適格者というべきであり、反面、先物取引受託に従事する者については、国内先物及び海外先物を問わず、先物取引に関する知識や経験がなく、ほぼ全面的に業者の提供する情報に依存せざるをえない一般投機家を勧誘する場合は、右仕組み、危険性を理解して判断する能力及び相応の余裕資金を有する者を対象とし、委託者に損失発生の危険についての判断を誤らせないように配慮すべきであり、右配慮を欠いて適格性のない者を勧誘した場合には、右勧誘は違法との評価を受ける可能性があるものというべきである。

前記四の2の(一)の(4)記載の国内先物取引の新指示事項が、不適正な勧誘行為として、「商品先物取引を行うのにふさわしくない客層に対しての勧誘」と規定し、これを厳に慎むものとしているのもこの理を表するものと解される(なお、旧指示事項においては、右客層を①未成年者、禁治産者等、②恩給・年金・退職金等により主として生計を維持する者、③母子家庭該当者・生活保護法適用者、④長期療養者・身体障害者、⑤主婦等家事に従事する者、⑥農業協同組合、信用組合等の公金出納取扱者と具体的に規定されていた(〈書証番号略〉)。

(二) そこで、一審原告らの適格性の有無について検討するに、一審原告らが二〇歳代から三〇歳代のサラリーマンであり、これまで先物取引の経験はなく、収入の低い者がほとんどであり、その多くがサラ金から借り入れて委託保証金を工面しており、余裕資金によって本件各取引を行った一審原告がほとんどいなかったことは、前記一の6認定のとおりである。

そして、各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 海外先物取引法においては、法規上、顧客として勧誘する年齢或いは職業について、何ら規制されていない。

しかしながら、女性と老人は、判断能力が一般的に劣る客層であるとして、これに対する勧誘は、社会的に非難されており、また、かつて、先物取引において紛争が多数生じたことがあったため、甲山は、オレンジ商品ではこれらの客層に対する勧誘を避けるように指示していた。

(〈書証番号略〉)

(2) 甲山は、昭和五九年オレンジ商品設立の当初は、四〇歳代ないし五〇歳代を顧客層としていたが、やがて、若年層は手持ち資金がなくとも安定した収入と回復力及び判断力のある客層であり、先物取引の委託者としての適格性があると考え、また、右客層を勧誘対象として多人数を顧客とすれば、一件当たりの金額は少額でもオレンジ商品の経営が安定するものと考えて、右客層も勧誘対象とするようになり、やがて右若年性層が大多数を占めるに至った。

(〈書証番号略〉)

(3) その後、若年層の顧客との間のトラブルが増加したため、オレンジ商品は、右トラブルを防止するため、平成元年六月三〇日付けの臨時役員会通達において、「①二五歳までの新規建玉は一枚まで、二六歳から二九歳までは五枚まで、三か月以内はその三倍までとすること、②特例申請については許可を得ること」旨通達し、さらに同年一一月一日に店長会議を開催して、新規契約におけるトラブル防止に関して検討した。その際、得に年齢層とクレジットの問題が話し合われ、資金力のない層からある層へ転換すること、クレジットを使用させないこと、自己資金のある者だけを開拓すること、現在の顧客のクレジットも禁止することが提案されたが、「入金が大幅に減る。」「新規が減る。」「交通費の問題からテリトリーが小さくなる。」「今の営業マンで、金のある年齢の高い層で新規獲得ができるか。」という問題点の指摘がなされた。

そこで、甲山は、件数は少なくとも、一件当たりの金額が大きい高年齢層に顧客層を移行させようと考えて、電話勧誘の名簿の変更や勧誘の方法等につき検討し、新規の顧客の年齢が低い場合は加給金の割合を低く(二二歳以下は支給しない。)、高年齢層の場合は高く設定するなどの方策を実施したが、年齢層を全体的に引上げることは困難であった。

(〈書証番号略〉)

(4) また、オレンジ商品は、若年層に対する対策として、その後も、社内通達で次のとおり二九歳までの年齢層に対する建玉枚数を規制した。すなわち、平成元年一二月一九日付けの業務課連絡で「二五歳以下の顧客は、新規一枚、増二枚、九〇万円まで、二六歳から二九歳までの顧客は新規五枚、増一〇枚、四五〇万円までとする。」旨通知し、平成二年三月一日付けのサービス部通達で「二五歳以下の顧客は、新規建玉三〇万円まで、三か月以内は九〇万円を限度とすること、二六歳から二九歳までの顧客は新規建玉一五〇万円まで、三か月以内は三〇〇万円を限度とすること」旨通知し、平成三年二月一日付けの本部長通達で「二〇歳から二五歳までは、新規建玉三〇万円・三か月間一〇〇万円限度、二六歳から二九歳までは、新規建玉九〇万円・三か月間二〇〇万円限度、三〇歳から三五歳までは、新規建玉一五〇万円・三か月間三〇〇万円限度、三六歳以上は、新規建玉の制限なし・三か月間五〇〇万円限度、とすること」と通達された。

(〈書証番号略〉)

(5) ところで、一審原告の年齢構成は二〇歳から二五歳までが三五名、二六歳から二九歳までが二六名、三〇歳以上が一七名である。

また、一審原告らのサラ金からの借入れ状況は、一律ではなく、当初の委託保証金を含めすべてサラ金からの借入金で賄った者もいるが、委託保証金に当初は自己資金を充てていたが、取引継続中にサラ金を利用するようになった者もおり、さらに、終始自己資金で委託保証金を賄った者も四名いる(一審原告5鶴田、同14小川、同67井口、同71柳)。また、前記のとおり一審原告らの取引継続期間は平均約7.25か月である。

(〈書証番号略〉)

(6) 甲山らオレンジ商品の幹部社員や営業社員は、顧客の多くがサラ金等のクレジット会社から借入れて委託保証金を捻出していることを認識していたが、委託保証金の捻出方法は委託者本人の問題であるとして、右捻出方法について、特に顧客に注意を喚起したりしたことはなかった。営業社員も、顧客管理台帳(〈書証番号略〉)には、顧客の資力等の記載欄があったが、顧客の資金捻出方法に特に配意しておらず、むしろ、契約締結に際し、「資金を借り入れても十分利益が上がる。」旨述べて契約を勧誘していた者もいた。

(〈書証番号略〉)

(7) 他方、国内先物取引の顧客の年齢層は、先物取引業界の雑誌(先物経済界一九九五年一一月号)に掲載された平成元年一一月末時点の調査によれば、委託者総数七万五二九九名中、二〇歳代が四七六〇人で6.3パーセント、三〇歳代が一万九四一八人で25.8パーセントとされており、二〇歳代から三〇歳代の顧客の割合は全体の三二パーセントであった。また、委託者の職業は、39.2パーセントが会社員であり、経験年数も六か月未満が25.8パーセント、六か月以上一年未満が17.4パーセントであった。

(〈書証番号略〉)

(三) 右認定事実によれば、オレンジ商品は、一審原告らのような若年層有職男子を顧客とすることを営業方針としていたところ、右客層の顧客の多くは、余裕資金に乏しく、サラ金から金員を借り入れて委託保証金を捻出する場合が多く、トラブルが発生したため、笠置らは、平成元年ころには右事情を知って、年齢層の引き上げのための対策や若年層の顧客の取引に若干の制限を加えて先物取引の危険性に対する配慮をしていたが、顧客の年齢層を引き上げることが困難で、新規顧客を獲得する必要から、年齢層引き上げの意向は示しながらも、右客層も勧誘対象とすることを続けていたものである。

(四) ところで、右年齢層の有職の成年男子は、前記国内先物取引の指示事項(新、旧)所定の不適格者と対比すれば、直ちに商品先物取引の客層として不適格と判断される客層ではなく、また、一審原告らの中には必要資金の大部分や当初の必要資金を自己資金で賄った者もいる。しかしながら、その多くは、先物取引の経験や知識を有せず、先物取引の危険性に対する理解力、判断力に若干欠ける要素を含んでいる上(とりわけ、二〇歳代前半の委託者)、収入が少ないにもかかわらず、サラ金から借り入れて必要資金を捻出しているのであって、これは、先物取引を行うにあたって必要な資金的余裕がないばかりか、先物取引による損失の危険性の外に、サラ金の高利率の利息をも負担することになるのであるから(前記二の1の(一)のとおり、先物取引において利益で終了する割合は一割程度と言う者もいる。)、先物取引の委託者としての適格性に乏しいものが多かったものといわざるをえない。

そうすると、オレンジ商品の営業社員が先物取引の委託者としての適格性に乏しい一審原告らの多くを勧誘したことは、それのみでは直ちに社会的相当性を逸脱していると解することができないとしても、違法性の有無を総合判断するにあたっては重要な要素となるというべきである。

甲山は、原審において、余裕資金の有無は、先物取引参加の適格性を判断する材料の一つにすぎず、現実に手持ち資金がなくとも、他所から借り受けて資金を捻出することができるのも財産的能力であるとの見解の下に、手持ち資金がなくとも、他から借り入れることができれば、適格性に欠けるところはない旨供述しているが、先物取引の有する前記危険性に照らせば、直ちに採用できない。

なお、証拠(〈書証番号略〉)によれば、オレンジ商品は、前記確認書に「貴社に預託する証拠金は全て、私の意志と責任に於いて準備し、入金致します。」と記載して、顧客から署名捺印をもらっていたこと、また、毎日流されるテレフォンサービスにおいても「投入資金をクレジット会社等から借り入れてお取引されましても、その結果については当社は一切の責任を負いかねますので、ご了承下さい。」旨の放送をし、週刊情報誌や顧客へ送付される残高照合通知書にも同趣旨の記載をしていたことが認められる。しかしながら、これは、サラ金からの借り入れを禁止するためのものではなく、右借り入れが委託者の自己責任であって、これを理由にオレンジ商品に対して苦情を申し入れることを防止するためのものであることは、右記載から明らかであるから、右判断を左右するものではない。

3  断定的判断提供による勧誘(リスクの非開示)について

(一) 一審原告らは、全員が一審被告ら営業社員から、「絶対に儲かる。」「損はしない。」等断定的に利益を得ることができる旨判断を示されて勧誘された旨主張しているところ、「断定的判断を提供して勧誘する行為」は、海外先物取引法一〇条所定の禁止行為(国内取引においても商品取引所法、受託契約準則において禁止されている。)であり、委託者に投機の本質を見誤らせるものであるから、社会的相当性を逸脱する違法な勧誘行為というべきである。

そして、一審原告らの前記陳述書や、一審原告8松尾建一、同27坂本豊美、同31宮副直安、同49木野裕文の各原審供述中には、右一審原告らは、オレンジ商品の営業社員らから、「確実に利益が出ます。」、「三か月ほどで一五パーセントの利益が出るのでそこで清算してまた新しく玉を建てて利益が乗ったら清算することを繰り返していけば、最初の金はすぐ戻ってくる。」、「コーヒー豆は、必ず相場が上がるから絶対儲かる。」、「中東情勢から、必ずガスオイルが暴騰するから絶対儲かる。」、「絶対儲かるからとにかく任せてくれ。」等利益が確実であると言われて勧誘された旨、右主張に副う記載部分ないし供述部分がある。

(二) そこで、ここでは、一審原告らの右陳述の信用性について一般的に検討しておくこととする。

(1) まず、オレンジ商品が、勧誘及び契約締結にあたって顧客に対して交付していた書面の観点から検討するに、オレンジ商品は、前記二の2の(二)で詳述したとおり、海外先物取引における先物取引委託の手引(〈書証番号略〉)、海外先物取引法が規定する法定文書である契約書(〈書証番号略〉)及びリスク開示書(〈書証番号略〉)のみならず、オレンジ商品が独自に作成した書面である確認書(〈書証番号略〉)を交付することとしていたが、一審原告らに対しても例外なく交付されていることは、各乙個号証の1ないし5から明らかである。

そして、前掲各証拠によれば、右海外先物取引における先物取引委託の手引、リスク開示書及び確認書には、海外先物取引が投機であって、大きな利益を得る可能性があるが、同時に大きな損失を被る可能性があること(リスクを伴うこと)が明記されていた。

とりわけ、証拠(〈書証番号略〉)によれば、甲山は、前記のとおり海外先物取引及び取引業者に対する社会的評価が厳しく、法定の書面のみであれば、後日、契約締結に関して、リスクの開示がなく利益が確実であると言われた旨、又は、分からないまま契約書に署名した旨等の苦情が出て紛争が生じる恐れがあると考え、後日の右のような紛争を防止するために、顧客に対し海外先物取引のリスクを明らかにした上で、顧客が右リスクを理解して真実自分の意思で自己の責任のもとに契約を締結したことを証拠化しておく必要があるとの考えから、営業上不利益が生じる可能性があるにもかかわらず、オレンジ商品独自に右「確認書」を作成したこと、そして、甲山は、後日、顧客から右確認書を見なかったとの弁解がなされることを防止するため、営業社員に対し、右確認書のそれぞれの項目毎に委託者から「理解した。」或いは「確認した。」旨を記載してもらった上で、それぞれ署名捺印を得るように指示していたこと、そこで、営業社員は、右指示に従って、顧客に右書面を読ませたり、自ら読むなどした上で、顧客から右「確認した。」或いは「理解した。」旨の記載と署名捺印をしてもらっていたことが認められる。

右書面の記載内容は明確であって、通常人がこれを読めば、海外先物取引(相場)に損得が伴うことを容易に理解することができ、仮に営業社員から「絶対利益が上がる。」旨勧誘されていたとしても、不審を感じて、契約締結に至らないものと解されるから、営業社員において、右書面を示しながら、なおかつ、断定的判断を提供して勧誘することは、通常は困難と解される。

(2) また、オレンジ商品の営業社員である一審被告ら(但し、一審被告荒巻泰久及び一審相被告丁野四郎を除く。)は、陳述書(〈書証番号略〉)において、それぞれ一審原告らに対し、「絶対に儲かる。」等利益を生じることが確実である旨の断定的判断を提供して勧誘したことはない旨陳述している。

そして、前記四の5の(二)の(1)認定のとおり、甲山らは、営業社員に対して顧客との間のトラブル防止を厳しく指示していた上、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、オレンジ商品においては、前記一の1の(二)認定のとおり新採用営業社員に対し研修を実施していたが、その際、「確実に値上がりする」「利益保証」「元本保証」「期限保証」との言葉を使用して勧誘することを厳しく禁止し、その後も、ミーティングや朝礼等の機会にたびたび指示していたこと、営業社員は、通常、相場の罫線(チャート)や新聞記事等の資料を持参して、手引きやパンフレット等を基に先物取引の仕組みを説明するとともに、前記二の3記載の時事ファックスや相場情報等の情報を基に研究した結果に基づき、相場の上げ要因、下げ要因を説明し、「需要が増えれば上がるのではないか。」等と相場の先行きに対する予想、思惑を話して(なお、若い営業社員の中には上司の意見や思惑を自己の思惑として顧客に説明していた者もいたが、オレンジ商品として相場の先行きに関する思惑を統一していなかった。)、右予想が当たれば利益が大きいことを強調して勧誘していたこと、その際、外れれば損失があることについても説明していたが、顧客獲得のために利益が上がる可能性に重点をおいて説得し、契約締結の見込みのある客に対しては、一旦断られても数日にわたって説得を重ね、長時間に及ぶこともあったこと、顧客が取引の意向を示せば、契約書や確認書等に署名捺印を貰っていたこと、営業社員は、新規顧客を獲得するために営業活動をしていたが、面談しても契約できなかった客の方が数倍多く、容易に新規顧客を獲得できなかったこと(営業強化月間(ブルーチップ)期間中に新規顧客が増加したこともあったが、平成三年四月から一二月までの新規顧客数は、一か月平均約六〇名であるところ、営業社員を二七名(時点を異にするが、平成四年八月三日時点の組織図上の営業社員の員数)とすれば、営業社員一名の新規顧客勧誘数は月平均約2.22名に過ぎず、最も少ない平成三年八月は平均約1.26名に過ぎない。)が認められる。

(3) そして、一審原告らのうち、原審において供述した四名について、右供述を更に子細に検討すれば、次のとおりであることが認められる。

① 一審原告8松尾建一

一審原告松尾は、原審において、「平成二年一〇月下旬ころ一審被告小畑から、先物取引及びガスオイルについての説明があった上、『確実に上がります。』と言われた。」旨供述するが、他方では、「小畑の話は信用できなかった。小畑も『絶対という保証ではない。』と言っていたので、同人に対しては契約することを断った。」とも供述している(なお、同一審原告は、陳述書(〈書証番号略〉)では「小畑に対し、リスクも大きいと言ってはっきり断った。」旨記載している。)。また、同一審原告は、勧誘関係書面(〈書証番号略〉)に署名捺印している。

そして、一審被告小畑は、「絶対儲かるとは言っておらず、リスクの説明をした。松尾は『先物取引は損をするもの』と考えていたようで、断られた。」旨陳述している(〈書証番号略〉なお、同一審被告の勧誘した一審原告48西村高広も、同一審被告の勧誘に対して、確実に儲かると思えないとして契約を断った旨陳述しており(〈書証番号略〉)、その信用性は高いと言うべきである。)。

右によれば、一審原告松尾は、同一審被告から「絶対ではない。」と言われて、断定的判断提供がなかったことを自ら認めている上、先物取引のリスクが大きいことを認識して、これを理由に拒絶したというのであるから、同一審被告から「利益が上がることが確実である。」旨の勧誘を受けたとは認めがたい(なお、同一審原告が契約を結んだのは、後記のとおり、一審相被告丁野が虚言を弄して不当な方法で勧誘したためと認めるのが相当である。)。

② 一審原告27坂本豊美

同一審原告は、原審において、「訴外稗田から『湾岸戦争で今がチャンスです。ガスオイルは絶対に上がります。注文ができるかどうか分からないが、とにかく注文して下さい。』などと言われた。」旨供述するが、他方では、反対尋問において、「『絶対』と言われたかどうかははっきり覚えていない。営業社員の言葉を一〇〇パーセント信じていなかった。」とも供述し、また、同一審原告は、勧誘関係書面(〈書証番号略〉)に署名捺印しているのであるから、同一審原告が「湾岸戦争で今がチャンスです。」旨言われて勧誘されたとしても、「絶対に」値段が上がると言われて勧誘され、その旨誤信して契約したとまではたやすく認めがたい。

③ 一審原告31宮副直安

同一審原告は、原審において、「一審被告原から『絶対に儲かります。二〇〇パーセント保証してもいい。絶対に損しない。』などと言われたため、契約した。」旨供述している。

しかるところ、同一審原告は、勧誘関係書面(〈書証番号略〉)に署名捺印しているところ、同一審原告の職業は、公務員(郵便局職員)であって、職業柄右書面の内容を確認しなかったとは考えにくい上、前記四の2の(三)の(4)説示のとおり、同一審原告は、極めて多額の取引を多数回にわたって積極的に行っていること、及び、一審被告原は、「必ず何パーセントの利益が出るなどと言って勧誘したことはない。」旨陳述し(〈書証番号略〉)、また、一審被告馬渡も「数字を示して勧誘したことはない。」旨陳述している(〈書証番号略〉)ことに照らせば、同一審原告の右供述には疑問の余地がないではないが、原審において、反対尋問でも一貫して前記供述をしていることに照らせば、措信するに足りると解される(但し、確実に儲かると誤信した点については、相当な過失があるといわざるをえない。)。

④ 一審原告49木野裕文

一審原告木野は、陳述書(〈書証番号略〉)では「一審被告小畑から『一〇〇万円以上も利が乗る。』と言われた。」旨陳述しているが、原審においてはその旨の供述をしていない。また、同一審原告は、原審において、「一審被告小畑から『湾岸戦争前で、必ずガスオイルが上がる。』と言われたため契約した。」旨供述するが、他方、反対尋問において、「自分は、利殖に興味があったから契約した。自分では先物取引では損がありうるとは思っていた。小畑から損について話があったかもしれないが、覚えていない。自分で始めたのだから、取引すること自体はいいと思っていた。」と供述している。

そして、一審被告小畑は、陳述書(〈書証番号略〉)において、「『戦争が始まるので上がるかもしれない。』とは言ったが、一〇〇万円以上も利が乗るなどとは言っておらず、損が発生する可能性があるということを話した。」旨陳述しており、しかも、前記確認書等の勧誘関係書面には同一審原告がすべて自筆で署名捺印している(〈書証番号略〉)。

右によれば、同一審原告は、同一審被告から損失発生の可能性を指摘されたことを否定しておらず、その可能性については認識していたが、同一審被告から相場の先行きについての思惑を説明された際に「値段が上がる」旨強調されたため、思惑どおりになれば利益を生ずるものと考えて契約するに至ったものと認めるのが相当である。

以上のとおり、原審において取り調べた一審原告四名の供述を検討すれば、陳述書や主尋問においては、「営業社員が『値上がり等による利益が絶対に確実である。』、『絶対に儲かる。』旨断定的判断を提供して勧誘した。」と供述しているが、反対尋問や一審被告らの陳述書を総合すれば、前記供述は、たやすく措信できず、むしろ、右断定的判断提供があったことを否定すべき場合があり、たとえ右のような勧誘文言があったとしても、これを全面的に信用して取引関係に入ったものではなく、損失が生じることがあることは認識していたものと認めるべき場合もあるといわざるをえない。

そうして、右以外の一審原告は、前記陳述書のみであって、法廷における供述がなされていないが、原審で取り調べた一審原告の陳述書の信用性が前記のとおりであることに照らせば、これを全面的に措信することはできない。

(4) 他方、オレンジ商品の営業社員であった一審相被告丁野四郎、訴外占部広宣及び同今村優は、別件ユニオンコーポレーション刑事事件における検察官面前調書(〈書証番号略〉)において、オレンジ商品に在籍中、顧客に「絶対値上がりするので儲かる。」旨述べて勧誘していた旨供述しており、また、証拠(〈書証番号略〉)によれば、顧客の渡辺寿紀が営業社員百合永に対し、電話で、勧誘の際に「必ず儲かる」旨述べて勧誘されたことの確認を求めたのに対し、右百合永はこれを肯定する返事をしていることが認められる。

特に、一審相被告丁野は、前記検察官面前調書(〈書証番号略〉)において、顧客に対して確認書やリスク開示書を読んで聞かせていたが、顧客から右確認書の記載について説明を求められた時は、「一般論として損もありうるが、現在の相場では値上がりは間違いがない。」旨述べて、右文言とは無関係に必ず儲かると思い込ませるように説明していた旨述べている。さらに、証拠(一審被告林(当審))によれば、一審被告荒巻は無断売買が発覚して降格された後に懲戒解雇され、営業社員百合永と同田籠は、不正行為があったため、営業から配置転換されたことが認められる。

右によれば、営業社員の中には、前記確認書等の交付にもかかわらず、断定的判断提供をして違法な勧誘をしていた者がいたといわざるを得ない。

(5) なお、原審における調査嘱託の結果(福岡県、福岡市、北九州市の各消費生活センターに対するもの)によれば、昭和六二年ころからオレンジ商品の勧誘等について右各消費生活センターに対する苦情等が相次ぎ、平成元年度から平成三年度にかけてが非常に多く、対象者は本件と同様にほとんどが二〇歳代の給与生活者であったこと、その内容は、①「儲かると言われて契約したが、解約できるか。」「先物取引の説明を受けてとりあえず発注書にサインするよう催促され、契約ではないと説明されたので、署名押印した。」「営業社員から『コードナンバーを確保した。正式登録が終了したので取引を開始する。』と言われた。」などの勧誘をめぐるトラブル、②オレンジ商品の営業社員にサラ金からの借入れを強要された旨の苦情、③クーリングオフ規定の説明がなく、その期間に解約を申し出たが、応じない旨の苦情、④解約の拒否、清算金の支払遅滞、などであったことが認められる。 しかしながら、右苦情の真偽については、右センターにおいて把握していない上(前記各調査嘱託回答書)、被害の時期から間がない時点において、公的な機関に対する相談であるけれども、契約者がオレンジ商品の先物取引によって被害にあったと考えて相談していたものであるから、相談者の一方的な主張であり、その信用性は吟味を要するものと解される。

(三) 以上認定の諸事情を総合して判断するに、一審原告らの前記各陳述書の記載には、前記のとおり疑問の余地もあるが、一審相被告丁野のように、確認書等の存在にもかかわらず、断定的判断を提供して勧誘していたことを自認している者もいるから、特段の反証がなければ、一審原告らの前記各陳述書の記載は措信するのが相当である。しかるところ、前記認定の事情、とりわけ一審原告らが勧誘関係書面(確認書)に署名捺印していることに照らせば、営業社員が右陳述書の記載に具体的に反論している場合には、一審原告の陳述内容を信用することはできず、むしろ、オレンジ商品の営業社員は、顧客を勧誘するにあたって、資料等に基づき相場の先行きについての思惑を説明する際、予想が外れた場合には損失が生じることも説明した上で、自分の判断(相場観)からして、値上がり(値下がり)の可能性が高く、取引により利益を得る可能性が大きいことに重点を置いて説明して勧誘していたものであって、利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供して勧誘していたとまでは認めがたいというべきである。

そして、営業活動において、営業担当者が相手方に対し、当該取引が有利であると考える理由を説明して顧客となって貰おうとすることは、通常の営業活動というべきであるから、先物取引の勧誘にあたって、利益取得を重点的に説明して、右取引によりある程度の利益を得られるものと期待させるような言辞を用いることは、前記のとおりそれが断定的なものではなく、リスクが伴うことも告げている以上、営業行為として禁止されているものとはいえない。そして、一審原告らの年齢、職業等に照らせば、右説明が相場の思惑であって、それなりのリスクがあることを認識することが、前記勧誘関係書面の交付ともあいまって、特に困難であったとまでは解することはできないから(なお、取引開始後は、「オレンジ商品の予想は確実なものではない。」旨繰り返し警告されていた。)、営業社員の一審原告らに対する右のような勧誘行為が、社会的相当性を逸脱した違法な勧誘行為とまではいうことはできない。

なお、証拠(〈書証番号略〉)によれば、平成元年ころまで使用されていたオレンジ商品の新入社員教本においては、顧客を勧誘する際は顧客の欲望に訴えて、相場に対する不安を取り除くことが必要である旨記載されているけれども、前記認定のリスクの開示を前提にした営業のテクニックを記載したものと解され、その後の新しい新入社員教本では前記のように断定的判断提供の禁止等につき記載しているから(〈書証番号略〉)、右説示を左右するものではない。

また、前記のとおり、営業社員の中には、右書面を示しながらも断定的判断を提供して勧誘したものがいると認められるが、オレンジ商品が会社ぐるみでこれを行っていたものでないことは前記のとおりである。

4  クーリングオフ期間潜脱の主張について

(一) 一審原告らは、オレンジ商品は海外先物取引法八条(クーリングオフ規定)に違反して受託している旨主張しているところ、前記二の1の(二)説示の海外先物取引法八条一項は、「海外商品取引業者は、海外先物契約を締結した日から一四日を経過した日以後でなければ、当該海外先物契約に基づく顧客の売買指示を受けてはならない。」と規定しているから、右規定(クーリングオフ規定)に違反した受託行為は、右規定に違反して違法性が高いというべきである。

(二) しかしながら、同項但書は、「但し、海外商品取引業者の事業所においてした顧客の売買指示はこの限りではない。」と規定しているから、右規定に基づいて売買指示を受けることは、右規定に違反するものではない。

そこで、一審原告らの中で契約日から一四日以内に建玉している者(一審原告4川口健太ら)の注文について、子細に検討するに、右一審原告らの注文伝票及び「訪問者カード」(〈書証番号略〉)によれば、右一審原告らの売買指示は、すべてオレンジ商品の事務所に赴いた各一審原告によってなされていることが認められる。したがって、各一審原告の売買指示は、右クーリングオフ規定に違反していないのである。

(三) これに対し、一審原告らは、クーリングオフ期間を潜脱するために一審原告らを事務所に赴かせて売買指示をさせたものである旨主張する。

海外先物取引法が右一四日間のクーリングオフを規定している趣旨は、事業所外で営業担当者と契約した顧客に対し、このような場合は軽率な思慮に基づく契約も多いので考慮期間を与えようとする趣旨と解されるところ、証拠(〈書証番号略〉)によれば、先物取引は、相場の要因の変化によって値動きが非常に大きく変動する取引であること、したがって、時期を失すれば、局面が変わって思惑どおりの利益を得る可能性がなくなることもあるので、新規契約した委託者の中には、自ら取引契約締結後直ちに売買指示をしたいと考える者がおり、その場合は、前記条項但書により事務所において注文する必要があったことが認められる。

そして、前掲各証拠によれば、甲山は、委託者が右のような理由で事務所に赴いて注文した場合も、後日、委託者から「キャンセルや事務所を見るために赴いたものであり、売買指示をするために事務所に赴いたものではない。」旨の苦情が出てトラブルとなる可能性があるので、営業社員に対し、顧客に前記「訪問者カード」に、来社の目的(建玉のために来社し、買付け(売付け)を指示したこと)を自筆で記載してもらった上で署名捺印してもらうように指示していたこと、及び、本件においてはすべてそのように実施されていたことが認められる。

さらに、証拠(〈書証番号略〉)によれば、消費生活センターに対する顧客の苦情、相談の中では、契約直後の解約に関するものが多く、同センターの職員はクーリングオフ規定による解約を助言していたこと、管理サービス部は、顧客からの申し出に対して、クーリングオフ期間中は建玉をしておらず、無条件で預託保証金を返還する旨連絡していたこと、営業サイド(一審被告丙田)は、右処理に不満を洩らしていたが、甲山は、右管理サービス部の処置が当然であるとして、同一審被告を咎めて、更に努力して顧客の信用を勝ち取るように指示していたこと、及び、平成三年四月から一二月までの間に締結された新規契約のうち、一か月平均約二割が解約されるなど、新規契約の相当部分は、クーリングオフ規定によって解約されていたこと(甲山は、別件刑事事件において、右規定により新規契約の約三割が解約されていると供述している。)が認められる上、一審原告らの多くは、一四日間のクーリングオフ期間経過後に取引の注文をしていること、並びに、一審原告らが前記のとおり自ら書面で売買指示の意思を表明していることに照らせば、営業社員が、クーリングオフ期間を潜脱するために殊更に事務所に赴かせて建玉をさせたものと認めることはできない。

一審原告らは、営業社員の指示に従って「訪問者カード」を記載したにすぎない旨主張するけれども、一審原告ら本人に建玉の意思がないにもかかわらず、売買指示の記載をするとは考えがたいから、採用することができない。

(四) したがって、一審原告らの右主張は、採用できない。

なお、クーリングオフ期間中に委託保証金を授受している例があるが、法が禁止しているのは、売買指示(注文の委託)であり、委託保証金の授受は禁止されていないから、右授受があったとしても、違法ということはできない。

5  虚偽、不当文言による勧誘の主張について

(一) 一審原告らは、オレンジ商品の営業社員は、顧客を勧誘する際に、虚偽、不当な言辞を弄するなど不当な勧誘を行った旨主張し、一審原告らの前記陳述書の中には、「オレンジ商品の事務所に電話したとして席に戻り、『希望者が多くてなかなか注文がとれなかった。』『やっとコードナンバーがとれました。』『枠が取れたので契約して欲しい。』等取引できる地位の取得自体が難しくようやく確保できたかのごとく装って、今更契約しないとは言えないようにして、契約して委託保証金を入金させた。」旨の記載がある。

(二) そこで、例えば、一審原告8松尾建一について検討すれば、次のとおり、オレンジ商品の営業社員の中には、虚偽・不当な文言を用いて勧誘している者がいるといわざるをえない。

すなわち、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、同一審原告は、営業社員から「玉を建てるだけ建てさせてくれ。」と言われたため、「勝手にしてくれ。」と言ったところ、平成二年一一月八日一審相被告丁野四郎が「あなたの玉は、非常に利益が出ている。金を入れて契約すれば、あなたのものになる。一週間でいいので取引して欲しい。」旨述べて勧誘したこと、そこで、同一審原告は、右の玉が実際に建玉されており、入金すれば自分のものになるものと誤信して、先物取引契約を締結し、確認書や契約書等にも署名指印したこと、同一審原告は、同月一六日オレンジ商品の事務所に赴いて注文したが、これは、右「建玉されて利益が出ている玉」を自分のものとするために必要であると誤信してなしたものであること、しかしながら、同一審原告の最初の建玉は、実際には右同月一六日であって、丁野の右発言は虚偽であったことが認められる。

右認定事実によれば、同一審原告は、同月一六日に新規に建玉する時点で気づかなかった点で過失があるとしても、右丁野の虚偽の勧誘文言を誤信して契約したものというべきであり、右丁野は、右虚言を弄した不当な勧誘によって同一審原告を本件取引に引き込んだものであって、違法な営業行為というべきである。

その余の一審原告についても、営業社員から右のような不当な言辞を用いて勧誘された者がいることは、別冊「個別認定」において認定するとおりである。

(三) しかして、営業社員が、その多くが先物取引の適格性に乏しい一審原告らに対し、右のような虚偽ないし不当な言辞を弄して勧誘して危険な海外先物取引に引き込む行為は、営業上許される範囲を越えており、社会的相当性を逸脱したものとして違法といわざるをえない。

6  サラ金からの借入の指示等

(一) 次に、一審原告らは、オレンジ商品の営業社員は一審原告らに対し、委託保証金をサラ金から借り入れるように指示して、サラ金に同行するなどしており違法である旨主張し、一審原告らの前記陳述書中には、これに副う記載がある。

(二) そして、例えば、証拠(〈書証番号略〉)によれば、一審原告8松尾建一は、平成二年一一月八日に先物取引契約を締結したが、所持金がない旨告げたところ、営業社員の一審被告甲斐勇一が同月一三日サラ金業者の入居しているビルまで連れて行ったこと、同一審被告は、同一審原告に対し、借入金の使途が先物取引であることを隠して、自動車購入代金と言うように指示した上、右ビルの前で待っていたこと、同一審原告は、サラ金二社で合計八〇万円借り入れて、これを同一審被告に委託保証金として交付したことが認められ、右認定に反する同一審被告の陳述書(〈書証番号略〉)はたやすく措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、別冊「個別認定」で認定するとおり、オレンジ商品の営業社員の中には、一審原告ら主張のようにサラ金からの借入れを指示したり、サラ金に同行したりした者がいることが認められる。

(三) しかして、前記五の2記載のとおり、投機を目的とする先物取引は、余裕資金によるべきであり、借入金等を投入して行うのは好ましくないことは明らかであるが、資金の捻出方法は本来顧客側の問題であり、国内先物取引においても、顧客の資金捻出方法自体については特段の規制はなされていない。このことは、海外先物取引においても同様であって、委託保証金に借入金を充てること自体は委託者本人の問題であるということができなくはない。

しかしながら、先物取引業者が積極的に資金の融資に関与するとすれば、先物取引の危険性の高さに照らして相当性を欠くものというべきであり、前記国内先物取引に関する新指示事項も、「委託者に融資の斡旋を約して勧誘を行うこと又は融資すること」を厳に慎むものとしている(〈書証番号略〉)。しかも、本件においては、一審原告の多くは、先物取引に参加する適格性に乏しい余裕資金を有しない若年層であって、その多くが資金捻出のために利率の高いサラ金から借り入れているところ、オレンジ商品の営業社員が右事実を単に認識していたというに止まらず、一審原告らに対し、右サラ金からの借入れを指示したり、同行したりして右借入れに積極的に関与することは、社会的相当性を逸脱しており違法というべきである。

7  過度の取引の助言、勧誘

(一) 一審原告らは、オレンジ商品の営業社員は手数料稼ぎのために顧客に対して過度の売買(取引)を助言、勧誘した旨主張する。

(二) しかしながら、オレンジ商品の営業社員の建玉にあたっての顧客に対する助言、勧誘が、手数料を詐取するための無意味な頻繁売買であったと認めるに足りないことは、前記四説示のとおりである。

(三) なお、一審原告らは、営業社員が委託者に対し、例外なく頻繁に両建を助言、勧誘しているのが不当である旨主張しているので、この点につき判断する。

証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、先物取引においては、自己の思惑と異なり、値洗い損が発生した際の対処方法が難しいとされており、委託者が資金の余裕を十分考慮して決断することが肝要とされていること、国内先物取引の「商品先物取引(委託のガイド)」には、値洗差損が委託保証金の五〇パーセントを超えて追証を預託すべき事態になったときが、追証を入金して相場の反転を期待して建玉を維持するか、見切りをつけて手仕舞いするかを判断する機会である旨説明されていること、両建は、前記四の2の(一)の(2)の①記載のとおり、そのような場合の取引手法の一つであり、追証が発生するおそれはなくなるが、新たな委託保証金と手数料を要し、両建を外す時期の判断が難しいとされていること、オレンジ商品の営業社員は、顧客に対して、前記対処方法として、追証、途転、両建、難平、損切り等がある旨説明するが、新たな損失の発生の可能性が少ない両建を選択する顧客が多く、営業社員も、顧客に対し両建することを助言していたことが認められる。

ところで、一審原告らの多くが、余裕資金を有しない若年層で、投機である先物取引に参入する適格性に乏しいことは、前記五の2説示のとおりであるけれども、これらの一審原告らに対し、値洗い損が発生した際の対処方法として更に新たな資金を要する取引手法を助言、勧誘することは、顧客が損切りを了承せずに取引継続の意向が強い場合はもちろん、無知に乗じて強引になされたものでない限り、いまだ社会的相当性を逸脱した違法行為とまではいうことができない。

(四) したがって、一審原告らの右主張は、採用することができない。

8  手仕舞い拒否の主張について

(一) 一審原告らは、オレンジ商品の営業社員らが、一審原告らの手仕舞いの申し出を拒否する違法行為を行った旨主張する。

(1) 前記のとおり、海外先物取引は投機性が非常に高い取引であるから、委託者は、利益を最大限確保し、或いは損失を最小限にくい止めるために、自己の意思で自由に手仕舞いをして右取引を止めることができなければならず、受託業者が委託者の右意向に反して、手仕舞いを拒否することは社会的相当性を逸脱したものといわざるをえない。

(2) これに対し、一審被告らは、顧客から手仕舞いの申し出があった場合に、顧客に対して営業継続を希望することは当然の営業行為であるから、営業社員は、右趣旨で顧客に対して応対していたが、これが拒否されて手仕舞いの申し出がなされれば、右手仕舞いに応じていた旨主張し、甲山の供述(〈書証番号略〉)にはこれに副う供述部分があり、また、前記藤原も、別件刑事事件において、「国内先物取引においても、先物取引業者は、手仕舞いの申し出に対して、取引継続を希望して顧客に要望するが、それでも手仕舞いを求められれば、これに応じている。」旨供述しているところである(乙一三四の2)。

なるほど、商品先物取引受託業者の主要な収入源である委託手数料は、取引が継続されて建玉されることによって更に発生するものであり、委託者の手仕舞いは、受託業者に手数料収入の減少をもたらすことに他ならないから、受託業者が、委託者に対し、右手仕舞いをせずに取引を継続するように希望することは、営業政策上ある程度やむを得ないことであり、また、その場合に、顧客がこれを受け入れて、手仕舞いをしないこともありうるところである(特に、顧客は、損失を受けた時に、取引を継続して損失の挽回を図るか、損失のままで手仕舞いをするかについて、判断がつきかねて営業社員に相談する場合もある。)。したがって、それがあくまで希望、要望に止まり、通常の営業行為として許される範囲のものである限り、それをもって直ちに違法とまではいうことはできない。

しかしながら、前記のとおり先物取引が非常にリスクの大きい危険な取引であることに照らせば、右取引から離脱する機会は最大限尊重しなければならないから、右業者の希望を認めるには慎重でなければならず、右希望を口実に手仕舞い拒否を容認する結果となることは相当ではない。

(3) そこで、右希望が営業上許される純然たる希望の程度にとどまり、顧客が手仕舞いの申し出を任意に撤回したことが、その後も取引が正常になされ、残高照合通知書が異議なく返送されること等により明らかな場合に限り、違法視されないにとどまり、これが立証されないかぎり、違法というべきである。

(二) この見地から、顧客からの手仕舞いの申し出に対するオレンジ商品の営業社員の対応について検討するに、各項末尾記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり違法な手仕舞い拒否の事例があったことが認められる。

(1) 昭和六三年九月ころ、顧客であった訴外成清慎一は、コーヒーの売り二枚、買い二枚を建てていたが、担当の一審被告冨山に対し、同月二八日に全部の決済を求める旨の電話をしたところ、同一審被告は、了承したかのごとく返事した。ところが、同一審被告は、同月二九日の電話で、同日中に全部落とす旨を約し、更に翌三〇日の電話では全部手仕舞いをせずに売りを一枚、買いを二枚落として新たに買い二枚を建てた旨の回答をし、その後も同年一〇月三日の確認に対して「値幅制限で手仕舞いができなかった。」と虚偽の回答をし、一方では売り一枚を建て、同年一〇月五日には買いのみの決済をして成清の取引を継続させて、営業上許される範囲を逸脱した違法な手仕舞い拒否をした。

(〈書証番号略〉)

(2) 訴外伊藤健太は、平成元年一二月現在で売り二枚、買い二枚の両建てをし、証拠金は二枚分相当額を入れていたが、残りの分の証拠金の工面ができず、結局、一審原告ら訴訟代理人らと相談し、オレンジ商品に電話して手仕舞いの申し入れをした。ところが、一審被告馬渡らは入金ができなければ建玉を処分できないとして決済を拒否して、執拗に委託保証金の入金を求めた。

(〈書証番号略〉)

(3) 訴外矢野宏一は、平成元年六月ころ、オレンジ商品との取引を中止すべく、担当の一審被告馬渡らにその旨を明らかにして手仕舞いを求めていたが、同一審被告らは言を左右にして応じなかった。そこで、同人は、本件訴訟代理人弁護士と相談してその立会いのもとで同月九日に同一審被告に電話して手仕舞いを申し入れた。しかし、同一審被告は、担当の訴外佐藤に相談するよう求めて応じなかったので、矢野は更に一審被告冨山に電話して「手仕舞いをして戻ることになる六〇万円を借入金の返済に充てたい。」と述べて手仕舞いを求めたが、同一審被告は、追加証拠金を入れるべき理由もないのに、不足金があるとしてこれを入れるか、ほかには建玉の二枚のみ決済するしか方法はないと回答して手仕舞いを拒否した。そこで、右弁護士において右一審被告らの上司である一審被告乙川に対し、手仕舞いの申入れをしてこの実行を確約させた。

(〈書証番号略〉)

(4) オレンジ商品の顧客の訴外荒巻武彦は、平成元年七月二一日一審原告ら代理人弁護士の事務所から一審被告原に電話して、当時の建て玉のままでの手仕舞いを求めたが、同一審被告はこれに応じず、決済時期を延ばすのが同原告のためであるかの如く述べた。次いで、同人は、応対を替わった訴外田籠に対し、「サラ金から借入れをしているのでやめたい。会社からも言われている。」などと値洗い損等があってもすべての取引をやめたいと切望したのに、右田籠も「午後五時の締切時間がすぎたので売建てなどによる清算ができない。」旨を述べて応じようとしなかった。そこで、右弁護士において電話を交代して一審被告丙田と交渉し、右の手仕舞いを約させた。

(〈書証番号略〉)

(5) オレンジ商品の顧客の訴外片山憲司は、平成四年一月現在、両建をして、一審被告荒巻から追加保証金の不足分として五〇万円を入金するよう求められた。しかしながら、同人は、金策ができなかったため、損切りのままで手仕舞いすることを申し入れたが、同一審被告は、言を左右にしてこれに応じないのみか、同人の実家の電話番号を教えるように求め、入金を強要した。

(〈書証番号略〉)

(三) そして、本件についても、一審原告らの前記各陳述書中には、「オレンジ商品の営業社員らは、追加証拠金の入金を迫られた一審原告らが手仕舞いを申し入れても、『もっと上がるから今止めたらもったいない。』、『これだから素人は困る。利益分でさらに建てなければだめだ。』、『今止めることは損が大きくてできません。』、『ここで止めるから皆さん損をするんです。ここでこらえなければ儲かりません。』などと述べて、一審原告らの求めを聞き入れずに手仕舞いを拒否し、取引を継続させた。」旨前記主張に副う記載がある。

ところで、本件においては、一審原告らは、原審において本人尋問を実施した四名以外は、すべて右陳述書等を提出するのみであり、他方、一審被告らのうち営業社員については、原審及び当審で尋問した二名以外は、右陳述内容を否定する陳述書(〈書証番号略〉)を提出するのみであるから、前記一説示の見地から違法な手仕舞い拒否の有無を判断するにあたっては、手仕舞いを拒否されたとする時期以降の取引の有無と内容、残高照合通知書の記載とその返送の有無(その後も正常に取引が継続され、残高照合通知書による確認があれば、仮に手仕舞いの意向を述べたとしても、任意に撤回して取引継続に応じたと認めるのが相当である。)及び最終手仕舞いが一審原告ら自身であるか、消費生活センター職員や弁護士によるか(一審原告が他人の手を借りて手仕舞いの申し入れをするのは、それまでの営業社員によって違法な手仕舞い拒否がなされていたことを推認させるものである。)等の客観的な事情に照らして判断せざるをえない。

しかして、右の見地から判断しても、営業社員の中に、営業上許容される範囲を越えて社会的相当性を逸脱した違法な手仕舞い拒否をした者がいたことは、別冊「個別認定」において説示するとおりである。

9  勧誘等における違法行為の主張についてのまとめ

以上によれば、オレンジ商品の営業社員の中には、その多くが余裕資金を有しない若年層で先物取引に参入する適格性に乏しい一審原告らに対し、断定的判断提供や不当な言辞を弄するなどの不当な勧誘をしたり、また、サラ金からの借入れを指示し、或いは右借入れに同行したり、さらに、営業上許容される限度を越えて違法に手仕舞い拒否をするなどをした者がおり、右のようなオレンジ商品の営業社員の勧誘から手仕舞いに至るまでの一連の行為を全体として見れば、当該委託者との関係において、社会的相当性を逸脱した違法な行為があったという外はない。

なお、各一審原告に対する違法行為についての判断は、別冊「個別認定」において詳細に検討するとおりである。

六  一審被告らの責任

1  オレンジ商品

(一) 共同不法行為責任(民法七〇九条、七一九条)

(1) 詐欺による不法行為の主張について

一審原告らは、オレンジ商品は、泰平商事とともに、構造的詐欺商法を企図し、向かい玉による詐欺及び頻繁な無意味売買の繰り返しによる詐欺を行ったことにつき不法行為責任がある旨主張するけれども、これを認めるに足りないことは、前記三、四で詳述したとおりである。

(2) 勧誘等における違法行為の主張について

一審原告らは、オレンジ商品は会社ぐるみで勧誘等において違法な行為を行った旨主張する。

まず、前記五の9説示のとおり、一審原告らの多くが先物取引を行う適格性に乏しい若年層であったにもかかわらず、甲山がオレンジ商品の方針としてこれを勧誘して先物取引契約を締結し、相当回数の取引を受託した点において、不適切との誹りを免れないが、これのみをもって直ちに社会的相当性を著しく逸脱した違法な行為とまでは認めがたい。しかしながら、このような適格性に乏しい者を勧誘するにあたって断定的判断提供や不当な言辞を弄する等の不当な勧誘方法を用いたり、サラ金からの借入れを指示したり、違法な手仕舞い拒否をなした場合には、取引を全体として見て、社会的相当性を著しく逸脱した違法な行為というべきである。

そこで、右のような違法行為が会社の指示の下に会社ぐるみでなされたか否かについて、検討する。

① 甲山らの紛争防止についての対応、発言

まず、オレンジ商品の代表者であり、退任後も実質的に会社経営を行っていたオーナーの甲山や一審被告乙川らが、右のような違法行為について、いかなる対応、発言をしていたかについて見るに、各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 前記四の5の(二)の(1)記載のとおり、甲山は、毎週開催していた月曜日の勉強会に月に一ないし三回出席して、顧客を大切にし、トラブルを起こさないようにすることを強調していたが、その外、毎月、オレンジ商品の営業状況等について掲載していた社内報の「講評」において、大要、次のとおり述べて、トラブル発生の防止を指示していた。すなわち、甲山は、「今後とも全社員一層気を引き締めて業務に励み、お客様のご要望には充分意を尽くし、間違ってもトラブルなど起こさないように徹底してもらいたい。」(平成元年五月号)、「今後、顧客管理の面でこうした問題を如何に解決し、問題を未然に防いでいくかが、わが社の最重要課題であることを認識してもらいたい。」(平成元年七月号)、「サービス部が新設された。まだまだ海外先物取引の会社には世間の目が冷たいので、厳に身を慎んで、かりそめにも人の非難を受けるような行動をしないようにしてもらいたい。」(平成元年八月号)、「一応創業以来の記録を更新したが、それに伴う諸々のトラブルによって評価が曇らざるをえない。お客様に誠心誠意を尽くすことによって初めて数字が上がると信じているので、営業は原点に帰ったつもりで事に当たらねばならない。先物取引に従事するものは如何にあるべきかという反省に立って、乗り切ってほしい。今後は、如何に社会に受け入れられる企業として当社を育成していくかにかかっている。」(平成元年一〇月号)、等と述べていた。

(〈書証番号略〉)

イ さらに、甲山は、平成元年五月の定例役員会において、トラブル撲滅の件に関し、営業部に対し、厳重に注意し、悪質なトラブルに関しては解雇も辞さない旨を指示し、同月の営業管理職会議において、「嘘を言ってトラブルを引き起こした社員については、減俸、降格等の厳重な罰則を実施すること」が決定された。また、甲山は、平成元年一一月や平成二年五月の店長会議で全力でトラブル防止に努めるように訓示したり、平成三年三月の管理職会議において、「先物取引に関し、お客様と協調関係を持ち市民に本当に入れられるものであるよう、管理職は心と品性の向上に努めるよう要請する。」と述べるなど、同人が出席する管理職会議や役員会等の会議において、トラブルの防止をたびたび指示した。右指示や決定は、社内報に掲載された外、毎朝のミーティング等で営業社員に対して伝達されていた。

(〈書証番号略〉)

ウ 甲山は、平成三年四月まで社長として各地の消費生活センターの職員等との間のクレーム処理等の対外的な折衝をすべて行い、営業社員に対してクレームが出ないように指導していたが、その後は一審被告林(管理サービス部副部長、部長)や一審被告乙川(専務、社長)が担当するようになり、同一審被告らは、たびたび、管理職会議や店長会議の席上でトラブルの内容等について説明して、営業部門に対し、注意を促していた。

(〈書証番号略〉)

エ さらに、甲山は、前記のとおり、幹部社員に対し、毎日業務日報を作成してファックスで自宅宛に送付するように指示しており、右報告の内容を検討して、更に報告を求めたり、注意したりしていた。例えば、甲山は、平成元年二月二一日の営業本部長の一審被告丙田の業務日報について、「顧客管理に細心の注意を払い、顧客育成に心掛けよ(顧客と伴に大きく育つカーギル貿易)」「書類関係のチェックは常に心掛けよ。それがトラブル防止に役立つ。」などと注意していた。

(〈書証番号略〉)

オ 前記一の1の(二)記載の新採用社員研修会においても、前記不当行為を禁止することが教育されていた。

(〈書証番号略〉)

以上認定の事実によれば、甲山らオレンジ商品の役員は、営業社員に対し、長期間にわたって、勧誘等について不当な行為を禁止し、トラブルの発生を防止するように繰り返し指導していたものというべきである。

なお、一審原告らは、右発言等は表面的なもので、実体は異なる旨主張するけれども、右主張を認めるに足りる証拠はなく、前記四の5の(二)の(1)説示のとおり、甲山は、オレンジ商品の会社内部の実体を明らかにするため社内の指示、言動等を記録に残していたところ、仮にオレンジ商品の悪質性を隠蔽するための表面的なものであるとすれば、長期間にわたる指示や業務日報であるから何らかの矛盾が生じるものと解されるが、そのような形跡は窺われず、真実の意向を吐露した表現も散見されるから、採用することができない。

② オレンジ商品の違法行為の防止に関する通達

次に、前記のオレンジ商品においては、紛争防止等各種業務命令のため、各種の通達が発せられていたが、違法行為の禁止については、前記五の2の(二)の(4)認定の若年層の新規建玉を制限する一連の通達の外に、例えば、次のような通達が発せられていたことが認められる。

ア 昭和六三年一一月二二日付け社長通達

紛争撲滅運動を行うにあたって、新規建玉二週間は両建を禁止、無理な追加注文は禁止する。

イ 平成元年六月三〇日付け臨時役員会通達

最近クレジット利用客、若年層顧客からのトラブルが多発しているので、次のとおり決定

(a) 顧客にクレジット会社の斡旋、紹介、同行を絶対にしない。

(b) 二五歳までの新規建玉は一枚まで、二六歳から二九歳までは五枚まで、三か月以内はその三倍までとすること

(c) 特例申請については許可を得ること

ウ 平成元年七月二八日付け臨時役員会通達

トラブル撲滅を図るため、点数制による罰則規定を設け、消費者センターや弁護士からの電話等による苦情があれば五〇〇〇円から一万五〇〇〇円までの罰金として、違反点数が累計すれば営業停止とする。

エ 平成元年一一月一日付け営業部通達

不適格者の勧誘及び融資の斡旋を禁止する。違反者に対しては解雇、減俸とする。

オ 平成二年四月二六日付けサービス部通達

郵送物をストップする場合には、本人から書面をもらい、担当者からその理由を記載した書面を提出させること。無断で処理した場合は始末書、減俸の対象となる。

カ 平成二年八月七日付け本部長通達

集金業務に無駄があり、トラブルも発生しやすく、顧客管理にも問題があるので、五〇万円以下の集金を厳禁とする。

キ 平成二年九月一八日付けサービス部通達

最近クレジット利用客、若年層顧客からのトラブルが多発しているので、再度確認する。違反者は厳罰となる。

(a) 顧客に対するクレジット会社の斡旋、紹介、同行を厳禁する。

(b) クーリングオフ制度の利用等消費者の権利を妨げると誤解されるような言動を厳禁する。

(c) 顧客の指示を拒絶したと誤解されるような言動、品性のない言動(子供の使いではない。コードナンバーを登録したから、キャンセルできない。入金しないと決済できない等)を厳禁する。

(〈書証番号略〉)

③ 管理サービス部の紛争防止対策について

次に、各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば、オレンジ商品に設置された管理サービス部の紛争防止対策に関して、次の事実が認められる。

ア 甲山は、平成元年八月にトラブルの未然防止、営業のチェック、紛争処理等を行うため、管理サービス部(顧客相談室)を設置し、古くからの部下である一審被告林をサービス部次長に任命して責任者とした(室長は、常務の乙川が兼務していた。)。その後、一審被告林は、平成三年に同部の部長となって、業務部、総務部等の内勤の責任者となった。

(〈書証番号略〉)

イ オレンジ商品では、右「顧客相談室」の電話番号を週刊情報誌、月間情報誌、残高照合通知書及び営業社員の名刺等に印刷して顧客に通知し、周知方に努めており、大多数の顧客がその存在を知っていた。その後、一審被告林は、消費生活センター職員の提案に沿って、顧客に対し、「オレンジ商品では、営業社員の過度の営業行為を禁止していること、そのような営業行為があった場合に、直ちに『オレンジ商品お客様相談室』に連絡すること」と記載した「お客様各位」と題する書面を契約当初に交付するようになった。

(〈書証番号略〉)

ウ ところで、平成二年三月一四日、当時顧客相談室室長を兼務していた一審被告乙川は、営業部長であった一審被告丙田に対し、「ブルーチップ期間のトラブルが多いため、サービス部は対応に追われている。ブルーチップの中止を勧告せざるをえない。」旨書面で勧告した。これに対し、一審被告丙田は、「改善を図って対策を取るので、ブルーチップの中止を猶予されたい。万一これ以上トラブルが発生するときは自主的に中止する。」旨回答した。

(〈書証番号略〉)

エ 一審被告林は、消費生活センター等からクレーム、苦情の申し立てがあった場合は、営業社員から事情聴取した上で、同センターの係員の指導に従って、自己の権限で解約や見舞金等の支払いによる解決をしていた。そして、同一審被告は、営業社員に対して、右苦情申し立て事案についての始末書の提出を求め(なお、平成元年三月一日付けの一審被告丙田の甲山に対する業務日報の中に、「始末書の件で営業は公で厳しく処理されているが内勤に対しては内々で処理されているという意見があるようだ。」との記載があることから見ても、営業社員に対する始末書の提出は厳しく行われていたことが窺われる。)、前記(一)の(2)の②のウ記載のとおり一件五〇〇〇円以上の罰金を実際に徴していた(右罰金額は、見舞金等を支払った場合にはその金額に応じて増額されており、また、一審被告冨山ら管理職についても、監督責任を問う趣旨で罰金を課していた。)。また、これらの事実は、営業社員の昇給や昇格の参考資料とされていた。

他方、右苦情処理の過程で、営業社員が不当、不法な行為を行ったことが判明した場合は、降格や配置転換の措置をとっており、例えば、一審被告荒巻が無断売買したことが判明したため、降格させた上で、最終的に懲戒解雇し、訴外田籠及び同百合永を配置転換とした。

(〈書証番号略〉)

右認定事実によれば、管理サービス部は、トラブル防止のために顧客に対する広報活動を行うとともに、営業部門に対しブルーチップの中止を申し入れるなどトラブル防止の措置を取り(前記勧告は、管理サービス部が機能していたこと及び右苦情に対して相応の対応を取っていることを示すものである。)、また、苦情の申し立てに対しては、営業社員に対し、始末書、罰金等を課し、更には降格、配置転換等の処分を行うなど、再発防止を図っていたということができる。

以上認定の甲山らの紛争防止についての対応や通達内容及び管理サービス部の措置に照らせば、甲山や一審被告乙川ら役員は、営業社員による不当な営業行為によるトラブル防止に努めていたと解される。

④ 不当勧誘について

次に、一審原告らの主張に即して、不当な営業行為に対するオレンジ商品の対応について検討するに、まず、オレンジ商品が会社ぐるみで一審原告ら主張の虚偽、不当な言辞(とりわけ、いわゆるコードナンバートーク)を使用していたか否かについて検討する。

証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、オレンジ商品は、顧客管理のために顧客ごとにコンピュータに取引の経過を記録していたが、コードナンバーは、そのコンピュータの整理番号であったこと、コードナンバーは、顧客が営業社員との間で契約した時点で確定するため、顧客に勧誘の際に記載してもらう「お客様カード」の備考欄に記載されて、その後の売買報告書や残高照合通知書等の書面にも記載されて顧客管理に使用されていたこと、ところで、オレンジ商品の営業社員の中で、平成元年ころ、クーリングオフ期間中に解約申し出があった際に、右解約の意思を翻意してもらうための言い方(営業トーク)として、「既に顧客としてオレンジ商品のコンピュータに登録されているので解約しないでもらいたい。」旨の営業トークを使用する者が現れ、その後、新規勧誘の際にも右営業トークを使用して勧誘する者もいたこと、その後、右コードナンバートークの使用につき消費生活センター職員から苦情が出されたため、オレンジ商品は、前記のとおり平成二年九月一八日サービス部通達で「コードナンバーを登録したからキャンセルできないなどの言動を厳禁する。」旨通達し、甲山も、折りに触れて右トークの使用を止めるように指示していたこと、及び、一審原告らの中にも、コードナンバートーク等の不当なトークを使用して勧誘された者とそうでない者がいることが認められ、右認定事実に、営業社員の一審被告辛島は、当審において、「顧客に対し、『コードナンバーは顧客管理のためのナンバーである。』と説明したことはあるが、『コードナンバーが直接取引に必要である。』と言ったことはないし、『コードナンバーが取れたのでキャンセルできない。』旨のトークを使用したこともない。また、右営業トークを使用するように上司から指導を受けたことはないし、『人気があるので、登録してみましょう。』等言ったこともない。」旨供述していることに照らせば、本件証拠上、オレンジ商品において、組織的にコードナンバートーク等の虚偽、不当な営業トークを使用して勧誘するように指示し、或いは営業社員が右トークを用いることを容認していたと認めることはできないといわざるをえない。

なお、オレンジ商品の元営業社員である訴外占部は、ユニオンコーポレーション刑事事件の捜査段階の供述調書において「平成二年七月ころ丸山係長が、荒武らが使っているのを真似てコードナンバートークを使うようになった。」旨供述している(〈書証番号略〉)。しかしながら、右供述によっても、オレンジ商品の営業社員の一部が右営業トークを使用していたというに止まり、オレンジ商品の幹部から右営業トークの使用を指示されたものでも、組織的に使用していたものでもないから、右認定を左右するものではない。

⑤ サラ金借入指示、同行について

次に、オレンジ商品が組織的に会社ぐるみで、顧客に対し、サラ金からの借り入れを指示したり、営業社員をサラ金へ同行させていたか否かについて検討する。

ア 前記五の2の(二)の(6)認定のとおり、オレンジ商品は、委託保証金の捻出方法は本来顧客側の問題であり、その点についてオレンジ商品は何ら責任を負わないとの考えから、顧客に対し、前記確認書に「貴社に預託する証拠金は全て、私の意志と責任に於いて準備し、入金致します。」との条項を置き、テレフォンサービスにおいても、「投入資金をクレジット会社等から借り入れても、その結果については一切責任を負いかねる。」旨放送し、週刊情報誌や顧客へ送付される残高照合通知書にも「お客様への確認」として同じ記載をし、顧客に対して周知徹底を図っていたが、オレンジ商品の顧客の各消費生活センターに対する苦情申し立ての中に、サラ金からの借入れを指示された等の苦情もあったことは、前記五の3の(二)の(5)説示のとおりである。

イ そして、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり消費生活センターから、委託保証金の資金としてサラ金からの借入金が使用されており、しかも、営業社員にサラ金に連れて行かれた旨の苦情があったことから、甲山らは、指摘がなされた営業社員に対し調査した上、顧客にサラ金業者を紹介したり、同行したりすることを厳しく注意し、前記のとおり、平成元年六月三〇日付け臨時役員会通達で「最近クレジット利用客、若年層顧客からのトラブルが多発しているので、顧客にクレジット会社の斡旋、紹介、同行を絶対にしない。」旨通達したこと、その後も、甲山らは、平成元年一一月一日付け営業部通達で「融資の斡旋を禁止する。違反者に対しては解雇、減俸とする。」旨通達し、平成二年九月一八日付けサービス部通達で「最近クレジット利用客、若年層顧客からのトラブルが多発しているので、再度確認する。違反者は厳罰となる。ア顧客に対するクレジット会社の斡旋、紹介、同行を厳禁する。」旨通達するなど、サラ金業者への融資の斡旋、同行等を禁止していたこと、ところが、平成三年一二月四日、一審原告70石橋章弘が委託保証金捻出のためにサラ金業者から金員を借り入れる際に、営業社員の訴外坂本聡がサラ金に同行してその店舗の外で待っていたところを一審原告ら訴訟代理人弁護士に発見されたこと、及び、甲山は、右坂本及びその上司の一審被告丸山を厳しく追及して始末書を徴するとともに、同月六日一審被告丸山を減俸五万円に、営業社員坂本を一か月の自宅謹慎にそれぞれ処する旨の社長通達を発していたことが認められる。

右認定の事実によれば、オレンジ商品は、営業社員に対し、サラ金斡旋、同行を禁止し、違反者に対しては相応の処分をしている上、顧客に対し、クレジット会社を利用した場合、その結果について責任を負わないことを繰り返し明示しているところ、営業社員である一審被告松尾敏洋は、原審において、オレンジ商品はサラ金を紹介したり、同行することを厳しく禁止しており、そのようなことをしたことはない旨供述し(なお、一審原告56原修は、陳述書(〈書証番号略〉)において、委託保証金三〇万円を用立てるため、同一審被告から「銀行は時間がかかるのでサラ金から借りてくれ。」と言われてサラ金から借入れ、その後も同一審被告からサラ金まで案内されて借り入れた旨供述していたが、同一審被告が右のとおり原審においてこれを否定する具体的供述をしたところ、同一審原告は同一審被告に対する請求を放棄した。)、また、一審被告辛島も、当審において、「サラ金への紹介システムはない。手元に金がなければ、借金してもある程度いい線で取引ができるのではないかと話したかもしれないが、サラ金へ顧客を連れて行ったことはない。」旨供述していることをも考慮すれば、本件証拠上、オレンジ商品が会社ぐるみで顧客に対しサラ金の融資斡旋等を図り、営業社員の右行為を容認していたとは認めるに足りないといわざるをえない。

⑥ 手仕舞い拒否について

次に、オレンジ商品が会社ぐるみで前記五の8の(一)説示のような違法な手仕舞い拒否をなしたか否かについて、検討する。

まず、前記のとおり、甲山は、原審において、顧客から手仕舞いの申し出があった場合に、顧客に対して営業継続を「お願い」することは、当然の営業行為であるから、営業社員に対し、右趣旨で顧客に対して対応するように指示していたが、右要望を断って手仕舞いの申し出がなされれば、右手仕舞いに応じるように指示していた旨供述しているところ、証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、オレンジ商品の出金率(出金額を純増金額で除したもの)は25パーセントないし33.5パーセントであって、国内業者の一〇ないし一五パーセントに比較して、出金率が非常に高いこと(なお、右出金率には解約等による出金も含まれているから、直ちに手仕舞いの多さを示すものとは言いがたい面もあるが、手仕舞いの多さを推測させる資料ということはできる。)、及び前記五の8の(二)の(1)認定の昭和六三年九月の一審被告冨山(当時副長職)の訴外成清に対する違法な手仕舞い拒否が判明した際、甲山は、同一審被告を厳しく叱責して減俸処分としたことが認められる。そして、オレンジ商品では、前記のとおり、営業社員に対し、顧客とのトラブルのないように指導し、顧客の手仕舞い拒否等の苦情について消費生活センターや弁護士から連絡があれば、罰金を支払う制度を設けていたことをも考慮すれば、本件証拠上、オレンジ商品が会社ぐるみで違法な手仕舞い拒否を行っていたと認めるには足りないといわざるをえない。

なお、甲山は、純増の増加も営業目標として強調しているところ、そのためには、新規取引の増大(新規建玉の増加)のみならず、取引継続の増加(手仕舞いの減少)が要素となるのであるから、営業社員において、顧客からの手仕舞いの申し入れに対し、これを拒否することになりやすい状況であったということができる。しかしながら、国内業者のみならず、銀行、証券等金融に関係する業界は、すべて顧客の開拓等により純増を増加させることを営業の目標としているのであるから(〈書証番号略〉)、純増の増加自体が不当とはいえない上、前記認定事実に照らせば、これが、営業上許容される手仕舞い中止の要請を越えて、違法な手仕舞い拒否に直ちに結びつくものということはできないから、右説示を左右するに足りるものではない。

⑦  以上によれば、仮に営業社員が前記断定的判断提供等の不当な行為を行って、これが全体として顧客に対する違法行為と認められるとしても、右違法行為をオレンジ商品が会社ぐるみで行っていたとまでは認めるに足りる証拠はなく、本件証拠上、オレンジ商品は、営業社員に対し、紛争を生じないように厳しく指導し、違反行為に対しては罰金等の処置をとっていたばかりではなく、個々の不当行為に対してもそれに対応する措置を講じるなど不当行為を容認していなかったのであるから、これにつき使用者責任が成立することは別として、オレンジ商品のオーナーである甲山や一審被告乙川ら役員が営業社員と共同して不法行為を行ったと見ることはできないといわざるをえない。

なお、オレンジ商品の元営業社員であった一審相被告丁野四郎らが関与して設立されたユニオンコーポレーションに関連して、同人らが詐欺事件で有罪判決を受けたことは、前記一の7の(二)認定のとおりであるが、同人は、不法な行為を行ったことが判明してオレンジ商品を懲戒解雇された者であり、ユニオンコーポレーションの仕組み、営業方針はオレンジ商品と異なっていたから(〈書証番号略〉)、丁野らが行った事実からオレンジ商品の違法行為の存在を推認することはできない。

(二) 使用者責任(民法七一五条)

オレンジ商品は、営業社員の使用者であるところ、同人らの別冊「個別認定」で認定する違法行為がオレンジ商品の事業の執行につきなされたものであることは明らかであるから、オレンジ商品は、その使用者として民法七一五条一項本文により、一審原告らが右不法行為により被った損害を賠償する義務を負うものである。

2  泰平商事

(一) 詐欺の主張について

一審原告らは、泰平商事は差玉向かいをすることによって、オレンジ商品らと共同して一審原告らから委託保証金を詐取した旨主張するけれども、右詐欺による不法行為責任が認められないことは、前記三で詳述したとおりであるから、採用することができない。

(二) オレンジ商品と泰平商事の関係について

次に、一審原告らは、泰平商事は、オレンジ商品と一体であるから、勧誘等における違法行為について共同不法行為責任ないし使用者責任により損害賠償義務を負う旨主張する。

証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 甲山は、泰平商事及びオレンジ商品等の泰平グループのオーナーとして、全体を統括してその意向の下にワンマン経営を行っていた。甲山は、一審被告乙川ら幹部に日常業務に関する権限を与えて、通常の業務に関与しておらず、前記のとおり平成三年四月にはオレンジ商品の代表取締役社長を退任したが、同一審被告らは、甲山の昔からの部下であり、同人の意向に従って日常の業務を行い、毎日同人に対し業務日報をファックスで送付して、業務状況を報告して指導を仰いでいた。

(2) 泰平商事は、当初、オレンジ商品と同一の場所に本社を置いており、オレンジ商品の内勤部門の業務委託を受けて、前記一の2認定のとおりオレンジ商品の業務部として泰平商事の向かい玉の注文を行うなど、業務の実体は、オレンジ商品と泰平商事とが区別がつかない状況であり、オレンジ商品の副部長である一審被告松尾も、自己の所属する会社がいずれであるかをはっきりとは認識していないほどであった。

そして、従業員の所属を見ても、平成元年八月一日現在の組織図によれば、オレンジ商品は役員二名(社長の甲山と営業部長の一審被告乙川)のみであり、その余の社員(営業四三名、内勤二八名)は、すべて泰平商事からの出向者とされていた。また、平成四年八月三日現在の組織図によれば、オレンジ商品は役員三名と営業三四名であり、泰平商事は役員三名と内勤一二名であり、また、ヤスタカ産業は役員二名、営業社員二六名(内二四名がLC事業部)、内勤三三名となっており、いずれも、オレンジ商品と泰平商事及びヤスタカ産業の従業員が一体となって海外先物取引の業務に従事する体制が取られていた。

(3) ところで、オレンジ商品は、社員を募集する際、先物取引会社名では新入社員の募集のための求人広告が拒絶されるため、泰平商事等の泰平グループの会社が求人広告を出して従業員を募集して面接し、採用者をオレンジ商品が営業社員として雇用したり、泰平グループの会社が雇用した上で営業社員又は内勤部門の従業員としてオレンジ商品に出向させる方法をとっていた。そのため、平成四年八月三日現在の泰平グループの「営業諸規定」には、昇給、昇格、加給金の規定がオレンジ商品、BFI、リエーム、泰平不動産については存在するが、泰平商事及びヤスタカ産業については右規定がなく、泰平商事及びヤスタカ産業に所属する従業員の給与は、すべてオレンジ商品から支給されていた。

(4) また、泰平グループでは、毎週土曜日に課責以上による事業部会議が開催され、各事業セクション別に営業報告等がなされ、毎月一五日には、グループ各社の長及び店長以上の役職者による店長会議が実施されていた。さらに、取締役以上が出席する役員会、常務以上の最高幹部による常務会、副部長以上による各種委員会等が開かれていた。右各会議は、オレンジ商品、泰平商事を含む泰平グループ各社の担当者が出席して一体として行われていた。

(5) 甲山は、幹部社員に対し、泰平商事等の泰平グループがそれぞれ営業成績を上げて、独立採算が取れるようになることを指示していたが、実際には、それぞれ採算が取れる程の営業成績を上げることはできず、オレンジ商品からの多額の借り入れによって経営が維持されていた。なお、甲山は、前記三の1の(八)認定のとおり、オレンジ商品の委託保証金を泰平商事等の泰平グループに貸し付けて、不動産購入に当てており、オレンジ商品は、貸借対照表上、貸付金として、平成三年三月三一日現在約一〇億円を、平成四年三月三一日現在約一四億四〇〇〇万円を計上し、泰平商事は、貸借対照表上、短期借入金として、平成三年三月三一日現在約四億三〇〇〇万円を、平成四年三月三一日現在約五億二〇〇〇万円を計上していた。

以上認定の事実によれば、泰平商事は、オレンジ商品とともに甲山の強力な統率の下にオレンジ商品の人材募集、内勤事務担当等の役割を持ち、役員会等の会議も同時に開催されるなど人的、物的構成が混同しており、オレンジ商品と一体的な会社(共同企業体)であると認められるから、オレンジ商品と同一の責任を負うものというべきである。

3  甲山、一審被告乙川、一審被告丙田、一審被告冨山

(一) 詐欺による不法行為の主張について

一審原告らは、甲山ら役員もオレンジ商品及び泰平商事と共同して詐欺による不法行為責任がある旨主張するけれども、右責任が認められないことは、前記のとおりである。

(二) 勧誘等の際の違法行為の主張について

一審原告らは、甲山ら役員もいわば会社ぐるみで不当な勧誘、サラ金同行、手仕舞い拒否等の違法行為を行った旨主張するけれども、本件全証拠によっても右事実を認めるに足りないことは、前記1の(一)の(2)で認定したとおりであるから、採用することはできない。

なお、前記五の2、7記載のとおり、経営者である甲山や一審被告乙川ら役員は、一審原告らの多くが先物取引に参入する適格性に乏しいにもかかわらずこれを勧誘し、両建取引を助言、勧誘するように指示した点において、不適切の誹りは免れないけれども、このことのみでは未だ社会的相当性を逸脱して違法な行為をしたとはいいがたい。

(三) 取締役の責任

一審原告らは、甲山及び一審被告乙川、同丙田及び同冨山は、取締役の第三者に対する責任(商法二六六条の三)を負う旨主張するけれども、本件全証拠によっても、右取締役が悪意又は重大な過失によって会社に対する義務に違反したものと認めるに足りないから、採用することができない。

(四) 代理監督者責任(一審被告冨山につき)

一審原告らは、同一審被告が民法七一五条二項により代理監督者責任を負う旨主張するが、右責任を負うためには、現実に被用者の選任、監督を担当していたことを要するところ、同一審被告が具体的にどの営業社員につき、現実に選任、監督を担当していたかについては、主張、立証がないから、採用することはできない(なお、同一審被告は、平成元年八月一日時点で次長として本店営業第一店の店長に就任していたが、オレンジ商品は、おおよそ四か月ごとに人事異動を実施していたため、実際の部下の営業社員が明らかではない上(右時点の組織図上、同一審被告の部下であったのは、第二課の副主任一審被告原清、第三課の主任一審被告松尾敏洋だけであり(〈書証番号略〉)、しかも、現実の選任監督の有無も明らかではない。)、営業社員の各違法行為との時期的関係等についても明らかではない。)。

4  一審被告林

(一) 前記一の4の(二)認定のとおり、一審被告林は、管理サービス部の責任者であるところ、証拠(〈書証番号略〉)によれば、同一審被告は、日常の営業行為には全く関与しておらず、営業社員に対し、直接指揮命令することはなく、また営業関係の書類が上がって来ることもなかったこと、同一審被告が顧客と接触するのは、顧客からの相談、苦情処理に当たる場合のみであったことが認められる。

右認定事実によれば、同一審被告は、適格性に乏しい一審原告らの顧客を勧誘した点を含めて営業に全く関係していない上、営業社員に対して指揮命令、監督する立場にはないから、同一審被告に対する請求はすべて理由がない。

(二) なお、一審原告らは、一審被告林は苦情が表面化しないようにする役割を担っており、これによりオレンジ商品の永続化を図った旨主張する。

しかしながら、同一審被告の右行為がオレンジ商品の悪性を隠蔽するためであったことを認めるに足りる証拠はない上、同一審被告が顧客からの苦情解決のために努力したことが正当な職務行為であったことは明らかであるから、これを違法とする根拠はなく、一審原告らの右主張は採用することができない。

5  一審被告馬渡ら営業社員の責任について

別冊「個別認定」において説示するとおり、一審被告馬渡ら営業社員の中には、故意又は過失によって、もともと先物取引を行うについて適格性に乏しい者が多かった一審原告らに対し、①断定的判断を提供したり、顧客に誤解を与えるような不当な言動を用いて勧誘するなどの勧誘に関する違法行為、②顧客に対しサラ金から借り入れることを指示し、又はサラ金業者の店舗まで同行するなどのサラ金借り入れに関する違法行為、③手仕舞いの申し出を違法に拒絶したりするなどの違法行為を行った者がいるところ、当該一審被告の右違法行為は、それ自体で、又はその後の営業社員の取引勧誘行為等と客観的に共同して、顧客である当該一審原告に後記の損害を発生させるに至っているから、右一審被告は、不法行為責任に基づき、当該一審原告に対し、右違法行為によって右一審原告の被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

(一) 一審被告馬渡一郎

(1) 別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告は、一審原告31宮副に対し、先物取引において違法な行為をしたというべきであるから、損害賠償義務を負うといわねばならない。

(2) これに対し、一審原告2富田及び同52八尋は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が違法行為をしたとは認められないから、右請求は理由がない。

(二) 一審被告佐藤文男

一審原告2富田は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が違法行為をしたとは認められないから、右請求は理由がない。

(三) 一審被告甲斐勇一

(1) 別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告は、一審原告8松尾建一、同25松尾茂満、同42北村及び同62吉川に対し、先物取引において違法な行為をしたというべきであるから、損害賠償義務を負うといわねばならない。

(2) 一審原告5鶴田及び同54堀は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が違法行為をしたとは認められないから、右請求は、いずれも理由がない。

(四) 一審被告辛島宏行

一審原告6金丸、同10中村、同23井手及び同40吉開は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が先物取引にあたって違法行為をしたとは認められないから、右請求は、いずれも理由がない。

(五) 一審被告荒巻泰久

(1) 別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告は、一審原告13千々和、同16白石、同24野村、同32古川、同38山本、同45坂井、同46横尾、同47有吉、同55皆川及び同63竹田に対し、違法な行為をしたというべきであるから、損害賠償義務を負うというべきである。

(2) 一審原告60北島は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が右先物取引において違法行為をしたと認めるに足りる証拠はないから、右請求は理由がない。

(六) 一審被告丸山滋生

(1) 別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告は、一審原告23井手に対し、違法な行為をしたというべきであるから、損害賠償義務を負うといわねばならない。

(2) 一審原告19原田、同21芳野及び同43城本は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が先物取引において違法行為をしたとは認められないから、右請求は、いずれも理由がない。

(七) 一審被告原清

(1) 別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告は、一審原告15石橋、同20石井、同31宮副及び同50山田に対し、違法な行為をしたというべきであるから、損害賠償義務を負うといわねばならない。

(2) 一審原告7永淵及び同9定松は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が先物取引において違法行為をしたとは認められないから、右請求は理由がない。

(八) 一審被告小畑真明

一審原告8松尾建一、同12鼻、同30古賀、同34武藤、同36小栁、同37加藤、同48西村、同49木野、同50山田及び同51前田は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が先物取引において違法行為をしたとは認められないから、右請求は、いずれも理由がない。

(九) 一審被告松尾敏洋

一審原告61東は、同一審被告に対し、損害賠償請求をしているけれども、別冊「個別認定」記載のとおり、同一審被告が先物取引において違法行為をしたとは認められないから、右請求は理由がない。

七  一審原告らの損害

1  損失額

別冊「個別認定」において各一審原告ごとに検討するとおり、一審原告らが本件先物取引によって被った財産的損失は、別紙二「認容金額一覧表」の「損失額」欄記載の金額であることが認められる。

2  慰謝料

一審原告らは、本件先物取引によって精神的苦痛を受けたと主張し、慰謝料として各損失金の一割を請求する。

しかしながら、財産上の損害については、財産的被害の回復をもって通常の損害は填補されたとみるべきであって、これによってもなお回復することができない精神的損害があるとすれば、それは特別な場合であるから、右特別な場合であることについて、一審原告らにおいて主張立証することを要するというべきである。

しかるに、本件の場合には、別冊「個別認定」における認定事実からは、未だ右特別な事情の存在が認められないら、一審原告らの右主張は採用することができない。

3  賠償額の減額調整(過失相殺、違法行為と損害との相当因果関係の立証の程度)

(一) 前記認定の事実によれば、一審原告らは、本件先物取引の開始にあたり、オレンジ商品の営業社員から交付された海外先物取引における先物取引委託の手引、リスク開示書、確認書等を検討すれば、海外先物取引が極めて投機性が高いもので、それ相応の専門的知識、経験と余裕資金がなければ、時として大きな損害を被ることを容易に知ることができたにもかかわらず、営業社員の説明から利益を得られるものと漫然と信じて、リスク開示書のみならずオレンジ商品が独自に作成した確認書に「確認した。」或いは「理解した。」旨記載して勧誘関係書面に署名捺印して先物取引契約を締結し、しかも、営業社員から指示されたにせよ、その多くが、資金としてサラ金から借り入れて、極めてリスクの高い取引に入っていること、また、多くの一審原告らは、クーリングオフ制度により解約することができたにもかかわらず、解約しないまま取引を開始していること(前記手引等に右制度につき赤字で印刷されている。また、消費生活センターへの申し立ての中には、クーリングオフによる解約を巡るものが多く、同センターの仲介で損失が生じる前に解約された事例も多い。)、その後、オレンジ商品から売買取引の都度その注文伝票控え及び「委託(買付・売付)報告書兼計算書」が送付され、少なくとも毎月一度は残高照合通知書が送付されてきたのであるから、取引の内容、自己の建玉の状況、値洗差損益の状況等を容易に知ることができたはずであり、しかも、オレンジ商品においては、顧客相談室を設置しており、苦情等があれば右顧客相談室へ連絡するように注意し、ほとんどの顧客がその存在を知っていたのに、オレンジ商品に対して、少なくとも正式に異議を述べなかったこと、の諸点において、一審原告らに落ち度があり、一審原告らのこのような態度が損害の発生及び拡大に重大な原因を与えたということができる。

(二) 次に、一審原告らの被った前記1の損失額と一審被告らの各違法行為との間に、相当因果関係が肯認されなければならないことは勿論であるが、本件事案の性質上、これを個別的に立証することは極めて困難であり、特に、違法行為が手仕舞い拒否のみである場合には、当該手仕舞い拒否の時点を明らかにする必要があるが、その立証は十分になされているとはいえない。

(三) そこで、本件に顕れた、一審被告らの違法行為の内容、程度、一審原告らの過失内容、程度のほかに、各損失額と違法行為との因果関係立証の程度等諸般の事情を総合考慮すれば、一審原告らの前記損失額について、左記の基準による賠償額の減額調整を行うのが、当事者双方の公平な損害分担の見地から妥当であると考えられる。

(1) 違法行為の中に断定的判断提供・不当勧誘・無断売買を含む場合

三〇パーセント

(2) 違法行為の中に右を含まず、サラ金指示・同行を含む場合

五〇パーセント

(3) 違法行為が手仕舞い拒否のみの場合

七〇パーセント

(四) 以上の理由により、一審原告らの損失額のうち、別紙二「認容金額一覧表」の「減額調整率」欄記載の割合を控除した同表「賠償額」欄記載の金額をもって、前記一審被告らの賠償すべき損害額(弁護士費用を除く。)とするのが相当である。

(五) これに対し、一審原告らは、本件においては過失相殺すべきではない旨主張する。

しかしながら、過失相殺の制度は、損害の発生及び拡大について被害者にも落ち度があった場合、損害の公平な分担を実現するために、賠償額を定めるにあたって被害者の過失(落ち度)を考慮して具体的妥当な解決を図るための制度であるところ、本件において、一審原告らに損害の発生及び拡大につき落ち度があったことは前記のとおりである。したがって、一審原告らの右主張を十分考慮しても、過失相殺は免れず、一審原告らの右主張は採用することができない。

4  弁護士費用

一審原告らが、本件訴訟代理人らに訴訟の遂行を委任したことは、弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の性質、審理経過、認容金額等に照らせば、一審原告らの負担する弁護士費用のうち、別紙二「認容金額一覧表」の「弁護士費用」欄記載の金額を、本件不法行為による損害として、一審被告らに賠償させるのが相当である。

5  そうすると、一審被告らは、一審原告らに対し、同表「認容額」欄記載の金額を損害賠償金として支払うべきである。

八  まとめ

以上によれば、別紙二「認容金額一覧表」の「被告番号」欄記載の一審被告らは、対応する同表「原告氏名」欄記載の一審原告らに対し、共同不法行為及び使用者責任に基づく損害賠償として、連帯して、同表「認容額」欄記載の金額及びこれに対する不法行為の後であることが明らかな平成五年一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第四  結論

そうすると、一審原告らの本件請求は、別紙二「認容金額一覧表」の「原告氏名」欄記載の一審原告ら(但し、原告番号10、18、26、35の一審原告らを除く。)において、対応する同表「被告番号」欄記載一審被告ら(但し、破産者オレンジ商品及び破産者泰平商事を除く。)に対し、損害賠償金として、連帯して、同表「認容額」欄記載の金額及びこれに対する不法行為の後であることが明らかな平成五年一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、破産者オレンジ商品及び破産者泰平商事各破産管財人に対し、右金額につき破産債権として確認することを求める限度で理由があるからその範囲で認容し、その余の請求(一審原告10中村、同18尾鼻、同26青木及び同35鹿子島の各請求並びにその余の一審原告らの破産者一審被告3甲山一郎破産管財人、一審被告4乙川、一審被告5丙田、一審被告6林、一審被告7冨山、一審被告9佐藤、一審被告11辛島、一審被告15小畑及び一審被告17松尾に対する請求を含む。)は理由がないので棄却すべきである。

よって、原判決中、一審原告2富田の一審被告9佐藤に対する請求及び一審原告60北島の一審被告12荒巻に対する請求を棄却した部分は正当であって、これらに対する右一審原告らの控訴は理由がないからこれを棄却し、一審被告らの各控訴並びに一審原告らのその余の各控訴及び請求の趣旨の変更に基づき、以上と結論を一部異にする原判決を右の趣旨の下に変更すべきところ、一審被告12荒巻は原判決に対し不服申立てをしていないため、同一審被告に対する認容額を原判決より減ずることは許されないから、一審原告38山本についてはその控訴を棄却するにとどめることとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条本文、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官谷水央 裁判官田中哲郎 裁判官永松健幹)

別紙認容金額一覧表〈省略〉

請求金額一覧表〈省略〉

別冊〔個別認定〕

以下、各一審原告ごとに、その主張に即して、本件証拠に照らしてオレンジ商品の営業社員の違法行為の有無について検討する。

1 一審原告1竹地敏章(〈書証番号略〉)

一 年齢・職業 二一歳・会社員

契約日・終了日 平成二年一二月三日・平成三年一月一九日(一か月半)

入金額 八〇万円(建玉三回)

清算金 一六万五七五五円

損失金 六三万四二四五円

残照回数 四回

主張 ①断定的判断提供、②無断建玉、③手仕舞い拒否

行為者 ①訴外占部、②一審被告馬渡一郎(但し、請求放棄)

二 判断

(1) 断定的判断提供

同一審原告の陳述書(〈書証番号略〉)によれば、同一審原告は、営業社員の訴外占部から「コーヒーの取引は株と違って絶対に儲かります。私が保証します。」等と断定的に利益が生じる旨判断を示して勧誘されたため、平成二年一二月三日に契約したことが認められ、同一審原告が、契約締結にあたって確認書、リスク開示書等の書面(勧誘関係書面)に署名捺印していること(〈書証番号略〉)をもってしても、右認定を覆すに足りない。

(2) 無断建玉

同一審原告は、右陳述書において、「平成二年一二月一九日の建玉は、勝手に注文されて一審被告馬渡(但し、請求放棄)から『会社に乗り込む。』等言われたため、委託保証金をサラ金から用意した。」旨陳述している。

しかし、証拠(〈書証番号略〉)によれば、右同日付け注文伝票には、「はいわかりました。明日訪問して値段、詳しい説明を聞きますので宜しくお願いします。」とのメモ書が残されていること、同一審原告は、右同日付け残高照合通知書に相違なしと記載して署名している上、右通知書には「一二月二〇日建玉の説明、残高照合 梅野」とのメモ書が記載されていることが認められ、反対趣旨の一審被告馬渡の陳述書(〈書証番号略〉)の記載に照らしても、同一審原告の右陳述書の記載はたやすく信用できないといわざるをえない。

なお、同一審原告の取引には、両建の同日仕切りがあるが(平成三年一月八日)、右対象商品は限月を異にしている上、同日付け注文伝票(〈書証番号略〉)には、「ガスに変更して下さい。」とのメモ書が残されて、同日付けで九一年五月限のガスオイル一枚を買付けていること、平成三年一月九日付け残高照合通知書(回答用)(〈書証番号略〉)に「相違なし」と記載していることから見て、同一審原告が両建同日切りをしたのは、対象商品をコーヒーからガスオイルに変更するためであったと認められるから、不当とは解されない。

(3) 手仕舞い拒否

同一審原告は、右陳述書において、「ガスオイルの値段が上がってきたので、平成三年一月一四日、一五日、一六日に電話して手仕舞いを求めたが、『もっと上がる、担当者がいないので精算できない。』等と断られたため、やむなく勤務先の上司に相談して警察に事情を話し、弁護士を通じてやってと手仕舞いができた。」旨陳述するところ、同一審原告が勤務先の上司や警察に相談して弁護士を通じて手仕舞いができたとする部分は、特別の事情であり、特段の反証もないから、信用できるものというべきである。

そして、他人の手を借りなければ手仕舞いができなかったことに照らせば、オレンジ商品の営業社員の手仕舞い拒否は、営業上許容される程度を越えていたと判断するのが相当であって、右担当者の行為は、社会的相当性を逸脱したものであって違法といわざるをえない。

(4) したがって、同一審原告の右主張中(1)、(3)は理由があるが、(2)は採用することができない。

〈以下略〉

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